深夜の酒宴 [文スト]

□其ノ陸
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「太宰が行方不明ぃ?」

探偵社で書類整理をしていると、国木田さんの不機嫌そうな声が響いた。

どうやら太宰さんが行方不明らしい。もう前回の事で大体想像はつくので心配はしないが。

それでも敦くんは心配らしく、少し慌てた口調訴える。

「電話も繋がりませんし、下宿にも帰ってないようで」

「どうせまた川ん中だろ」
「海でシンクロじゃないですか?」
「拘置所にいるパターンかも」
「女とどっかに行ったとみた」

私を含めほぼ全員から碌でもない理由が挙げられた。
だって、この前だって海で刺さってたし、過去の苦情を見てみたら殆どが太宰さんの仕業だったからな。

「けど、ポートマフィアに狙われているのは確かですし……
真逆マフィアに暗殺されたとか…」

それでも心配そうに続ける敦くん。あーあ、太宰さんが羨ましい。あんな所業でこんな男の子に心配してもらえるなんて……

私はこの前の一件を思い出して溜息をついた。あの日は結局、太宰さんの良いように無銭飲食されただけだったからな。


国木田さんはパソコンから頭を上げずに答えた。

「阿呆か。あの男の危機察知能力と生命力は悪夢の域だ。あれだけ自殺未遂を重ねてまだ一度も死んでない奴だぞ。

己自身が殺せん奴をマフィア如きが殺せるか。」

答えながらカップの中の紅茶を飲み干す。

「あ、麟。お代わり頼む」

そう云って私にコップを渡してきた。

「はーい」

コップを受け取って給湯室に向かう。


太宰治。元ポートマフィアの幹部…確かに万が一捕まってたとしたらヤバい事になりそうだけど……

それでもあの人の経歴を見る限り、そう簡単にやられる玉とも思えない。寧ろ、態とでもなきゃマフィアだって捕まえられない気がする……

心配するだけ無駄だな。

うん、と1人で納得して新しい紅茶を国木田さんの所に持って行こうとした時

「ふァ〜あ」



与謝野さんの欠伸が聞こえてくる。此れは合流しちゃうと買い物の連れ回しコースだ。
私自身、人と買い物をするのがあまり好きじゃないので捕まらない様に隠れる。

耳を欹てて聞いていると、どうやら敦くんが犠牲になったようだ。

悪い人じゃないから、頑張って敦くん……

心の中で合掌して、与謝野さんが出かけて行くまでの間息を潜めた。

与謝野さんもよくあんなに毎回買い物して飽きないよなぁ。しかも、与謝野さんは幾つも店を回ってあっちでもこっちでも物を買って行く。

私みたいな面倒くさがりにはその良さはよく判らないけど……


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