深夜の酒宴 [文スト]
□其ノ漆
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敦くんと与謝野さんが出掛け先で襲撃されたらしい。
マフィアの梶井基次郎と暗殺者である少女によって危うく電車ごと吹き飛ばされる所だったそうだ。
ただ、一番驚いたのは敦くんがその暗殺者の少女を連れて帰ってきたことだ。
「また面倒を持ち帰ったな」
医務室の扉の前でしゃがみこんでいる敦くんに国木田さんが静かに告げた。
私は少し離れた所から見守る。国木田さんは可愛らしい兎のマスコットがついた携帯電話を敦くんに投げる。どうやら、例の少女が持っていた代物らしい。
「蓄電池は抜いてある」
「僕がもっと早く気づいていれば……」
悔しそうに頭を垂れる敦くん。警官の一家惨殺事件……確か新聞で読んだことがある。そういった組織にとって邪魔な者を排除する。
彼女がやってきたのはそういう仕事だ。
「気にするな、お前に出来ることはない。あれは手遅れだ。
あの娘は界隈では名の通った暗殺者だ。容姿で油断させ敵組織ごと鏖殺する。
だが急激に戦果を上げすぎた。顔が知れて捕まるのは時間の問題だ」
敦くんに厳しい口調で話す国木田さん。敦くんは項垂れた。
「そんな……悪いのは彼女の異能力を利用してる奴なのに……」
「異能力がその当人を倖せにするとは限らん。お前なら知ってるだろう」
敦くんにとっては厭な台詞だろうが、国木田さんの云うことは正しい。例え本人に悪意が無かったとしても、犯した罪に変わりはない。
でも彼女の事は敦くんから聞いた。爆弾が爆発する直前、彼女は“もうこれ以上一人だって殺したくない”と叫んで列車から飛び降りたという。十四歳の少女がどれだけ過酷な場所で生きてきたのか……
十四歳……か
“待ってくれ!”
そう叫びながら、銃弾を受けておじさんは倒れる姿が一瞬浮かんだ。あの日は確か……十四歳になって二ヶ月が経った日だったっけ。
私は何も云わずに立ち上がった。私が同情した所で彼女の罪は消えない。三十五殺し……それだけ人を悲しませたのだから、罰は罰として償わなきゃいけないだろう。
それでも、出来れば倖せになって欲しいと願うくらいは赦して貰えるだろうか。
「目覚めたよ」
与謝野さんが扉から顔を覗かせて云った。敦くんと国木田さんが其方を見やる。
「調書はとれそうですか?」
「意識も安定してるし、問題ないよ」
国木田さんはそれを聞くと、敦くんと一緒に医務室に入っていった。
今からきっと、あの子に対して事件や諸々の罪、彼女の上の人物の聞き取りが行われる。
敦くんと一緒に入ったから、そこまでヤバい取り調べは無いと思うけど……ちょっと心配だな。