深夜の酒宴 [文スト]

□其ノ漆
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谷崎くんが潜入のために移動した頃事務員、社長を含むメンバーで会議が行われた。

「誘拐を目撃した観光客が偶々撮影したものです」

そう云って国木田さんは写真を一枚取り出してホワイトボードに貼り付けた。

街中で多く見られるごく普通の貨物自動車(トラック)だった。

「……有り触れた(タイプ)だ」

社長が資料を持ち上げて少し考える様に顎に手を当てる。
資料を見ながら国木田さんが続ける。

「はい。車台番号(ナンバー)も偽造でした。しかし横浜でこの手の偽造業者となれば限られます。

心当りの修理業者に賢治が当ったところ快く教えて貰えました」

快く……?そんな優しく教えて貰える仲なのか……
賢治くんってすごいんだな。

私はホワイトボードの横に立ったまま密かに感心していた。

貨物自動車(トラック)の所有者はカルマ・トランジットです。」

「そのカルマ・トランジットですが、密輸業者(ミュール)あがりの運び屋でした。」

賢治くんに続いて私は調査資料を読み上げた。

「其奴らに聞けば輸送先が判る か。」

社長の問いに国木田さんが答える。

「はい。ポートマフィア以外で誘拐の全容を知るのは此奴らしかいません。
現在谷崎が現場で待機中…何時でも踏み込めます」

流石、仕事が早い。谷崎くんの異能力はこの前しっかり教えて貰った。細雪…雪の様なものを降らせて、周りをスクリーンの様に映像を投影出来る能力。
潜入捜査にこれ程向いている人材は少ない。

潜入した谷崎くんから国木田さんが電話で状況を聞いていたのだが、急に様子がおかしくなった。

『先手を打たれました!』

電話先で叫ぶ谷崎くん。

「おい 如何した!」

『口封じに…全員殺されています!』

ー!

「芥川だ…」

国木田さんが目を見開いたまま呟いた。

「どうすンだい?唯一の手掛りがおじゃんだ」

与謝野さんが座ったまま国木田さんに云う。
それに対して社長は何も言わずに立ち上がって、乱歩さんの横に写真を落とした。

「乱歩、出番だ」

乱歩さんは一瞬厭そうに写真をチラッと見て

「…やんないと駄目?」

「乱歩さん ここはどうか……」

国木田さんがそう云うが効果はなさそうだ。

「乱歩 若し恙なく新人を連れ戻せたら……」

「特別賞与(ボーナス)?昇進? 結構ですよどうせ…」

「褒めてやる」

社長の台詞に一瞬乱歩さんは驚いた様に目を見開いた。そして、嬉しそうに帽子を被って

「そ…そこまで云われちゃあしょうがないなあ!」

あ、ノリノリだこの人……社長大好きなのは相変わらずだな。

「異能力…『超推理』」

眼鏡を掛けて数秒写真を見つめた。

「フン…なるほど。敦くんが今いる場所は此処だ。」

そう云って乱歩さんは地図を指さす。横浜ベイブリッジのすぐ横の海だ。

「速度は20ノット。公海に向け進んでいる。死んではいないよ…
今はね」

やはり、あまり状況は宜しくない。

「ック……海か……」

「輸送先は外つ国か…」

焦る国木田さんに社長が冷静な口調で云った。

「拙い…国外に出されたら手の出しようがない。」

「国木田 使え」

そう云って鍵を放り投げる。

「港に有る社の小型高速艇だ。必ず連れて戻れ」

社長が重く響く声で云う

「判りました。国木田、これより中島敦を救出に向かいます!」

鍵をぎゅっと握って国木田さんは走り出す。

「お願いします!」

絶対に助けて下さいね…お願いします…

そう祈る気持ちでその背中に叫んだ。
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