深夜の酒宴 [文スト]

□其ノ捌
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紅茶を美味しく淹れるには幾つかコツがある。

一つ、ポットとカップを温めておくこと

二つ、適当な量の葉を先にポットに入れておくこと

三つ、勢い良くポットにお湯を注ぎ入れること

四つ、凡そ三分間しっかり蒸らすこと

五つ、最後の一滴(ゴールデン・ドロップ)までしっかりカップに注ぐこと

誰でも出来る紅茶を美味く淹れる為の秘訣だ。勿論、紅茶の葉に拘ったりポットの形状に拘る事も味を追求するとプロレベルになるかも知れない。

淹れた紅茶を会議室のそれぞれのデスクに運んだ。

最初に社長の前に置くと

「すまんな」

と一言返ってくる。

次に乱歩さんの所に置きに行くと

「あーあんがとねー」

やる気なさそうな声が返ってくる。

「わぁありがとうございます」

嬉しそうに返してくれる賢治くん。

「お、ありがとうございます」

ニコッと笑う谷崎くん。

「サンキュ」

口角を少し上げて返してくれる与謝野さん。

三者三様の返し方があり、私が一番嬉しい時間だ。

イマイチ落ち着かない時は、こうして紅茶を飲むに限る。

ゆっくりした動作で紅茶を傾けていると、カップを持ったまま頬杖をついた与謝野さんが

「アンタは一寸(ちょっと)心配し過ぎだよ」

と私の腹を見透かしたかの様に笑った。

「…超能力者ですか」

私は溜息混じりに云うと

「どっちかって云うと異能力者だねぇ」

ケラケラとそう云って益々笑われた。

「そーそ。麟が心配しようとすまいと敦も国木田も帰ってくる時間が早くなる訳じゃないし」

奥の机で絶え間なく駄菓子を食べていた乱歩さんが話に入ってくる。

「判ってます、それくらい…。ただ一寸(ちょっと)落ち着かないだけじゃないですか」

そう云ってカップに残った紅茶を一気に飲み干した。

すると、先程まで静かに茶を飲んでいた社長がスっと立ち上がって、此方に歩いてくる。
そして懐から何かを出した。

「麟」

「!…はい」

珍しいなと思いながら立ち上がった。社長から渡されたのは茶色い封筒だ。

「暇ならこの依頼を処理しておいてくれ」

……ん!?
今の流れで別の仕事?

「え…敦くん奪還以外は凍結では……?」

「麟は少し動いた方が良いだろう。その方が気も紛れる」

そう云ってほぼ強制的に受け取る羽目になった。

「ぇ……はい。判りました」

今の流れで何故…?

若干腑に落ちないが、社長命令なので従順に外出準備をした。
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