深夜の酒宴 [文スト]

□其ノ拾弍
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探偵社に無事帰還した。

ところが、私を待っていたのは地獄だった。


脱臼の件は別の医者にかかった為に既に完治していた。
与謝野さんに治される予定は無かった筈だった。

なのに……

「……ドウシテコウナッタ」

医務室のベッドに全身が固定された状態で、私は虚空を見つめていた。

それもこれも敦くんが悪いのだ。

「うっふっふ

まーったく(あたし)に黙ってやり過ごそうってのが善くないねェ。

ちゃんと完治させてやるのにさァ。病院じゃまた再発しやすくなるのは治せないだろう?

敦が心配して『麟さん、腕大丈夫ですか』って云ってなきゃそのままだったねェ。」

そう……敦くんが凄く心配してくれていたのだ。
それが国木田さんに漏れ、与謝野さんまで伝わってしまった。

敦くんが悪い。

そして、奥の手の異能も使って逃げようとしたのだが、太宰さんにガシッと呆気なく捕まえられてしまった。

後で二人の飲み物に唐辛子仕込んでやる……

必死に現実逃避をして意識を逸らそうとしたのだが、厭な音にそれすら遮られた。

ギュオオオ

物凄い音を立てて回転鋸(チェーンソー)が回る。

もう私は恐怖で何も考えられなくなった。

そして与謝野さんの艶っぽい愉しそうな声が医務室に響く。

「さァ 治療の時間だよ!」

与謝野さんが悪魔の笑みを浮かべながら回転鋸(チェーンソー)を振り上げた。

「ぎゃあああああああ!!!」



一一一
一一一一

「…………」

身体だけはピカピカだが、もう心が完全に死にかけている。
すぐ近くで与謝野さんが腕組みして私を見下ろしている。

「全く、怪我をしたならちゃんと云いな。万が一ってことがあったら困るんだからねェ。」

「……嬉嬉として回転鋸(チェーンソー)掲げられるくらいなら、多少の痛みくらい耐えられます……普通は……」

私は机に突っ伏したまま力なく答えた。

「まあ、自業自得だな。捕まった挙句無理に動いて脱臼したんじゃ何も云えないね。」

乱歩さんが机に座って駄菓子を食べながら云った。

また行動読まれた……

「乱歩さんの云う通りだ。麟、お前今回捕まると判った上で賢治と代わっただろ。」

「判ってはいません。捕まる“かも”とは思ってましたけど……」

「無茶をするなとあれ程社長にも云われていただろうが!
お前は大体いつもいつも勝手な行動をしおってーー」

話が長そうなので完全に無視した。そうして流していると

「ーーという訳で社長からもお叱りだそうだ。」

……え?

気の所為かもしれないが、凄く拙い事を云われた気がする。
私はぎこち無い動きで首を動かし、国木田さんをみた。

「……今なんと?」

「社長から呼び出しだ、行ってこい。」

「マジですか……」

社長は昔っから、私がこういう無茶な行動をした時のお説教は怖い。
というか、精神衛生上良くない。

厭がる私を国木田さんが引っ張って社長の所まで運ばれた。



何とかお説教が終わった頃には、私にはもう何もする気力が無くなっていた。


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