深夜の酒宴 [文スト]

□其ノ拾伍
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組合の人間は思っていたよりも早くやって来た。

正直云って、ナオミちゃんが機転を利かせて従業員用の駐車場に逃げて無かったら今頃危なかった。

勝手に拝借した車で逃げながら、切実にそう思った。

「でも何故こんなに早く組合が?」

運転席の春野さんが車を走らせながら云うと、助手席のナオミちゃんが考えながら応える。

「マフィアですわ。

私達の対応が早すぎれば組合は罠を警戒します。
遅すぎれば組合を利するだけ…マフィアは絶妙の(タイミング)で情報を左右に振って敵を咬み合わせた。」

私は以前会ってしまったポートマフィアの首領(ボス)の顔を思い浮かべた。

本当に恐ろしい頭脳の持ち主のようだ。初対面では唯のお父さんっぽい人だと思ったが……

「強敵ね…」

春野さんが呟いた。

「大丈夫ですよ。私達だって負けてませんから」

春野さんの後ろからそう云って笑いかける。

二人が少し笑ってくれた時だった。ガコッと物凄い音が車から鳴った。

何かが車に巻きついてくる!?

「っ!?二人とも、一度シートベルトを外してください!最悪逃げられる様に!」

私が叫ぶのとほぼ同時に、車体が宙に浮かんだ。

「何かが車体に!?」

ナオミちゃんが叫ぶ。私は後部座席から車体を見渡す。

「木の根……?」

車体は木の根に依って捕えられていた。春野さんがアクセルを踏み込むが、当然の様に逃れられない。

「ドアが開きません!」

慌てた様子のナオミちゃん。私は異能力を使うべき瞬間を見極めようと必死だ。

勿論、一旦此の車から逃げる事は不可能では無い。
但し、相手の姿も異能力もまだ把握していない今は、逃げてもあまり(メリット)が無い。
異能を使って逃げるにしても休憩時間(インターバル)を考えると無駄な異能は使いたくない。

木の根がグイグイと車を押し潰さんばかりに締め付け、ナオミちゃんと春野さんがあせりだす。

どうする!?今使うか?

そう悩んでいた時、木の根の動きが止まった。

「申し訳ないね、お嬢さん方」

車体の下の方から男性の声がした。先程割れてしまった窓から私は少し顔を出す。

立っていたのは二人。首元から木を伸ばしている金髪で作業服(オーバーオール)の青年。もう一人は髪の長い黒服で痩せた男性だった。

組合の刺客……
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