深夜の酒宴 [文スト]

□其ノ拾伍
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私の異能力は自分と自分が触れている物以外の時間を止めることが出来る。

但し、この触れているものというのは私の肌と直接触れる必要がある。

更に、基本触れればそれと一体になっているものも、同じく時間停止を免れるが、それが人間など生物であれば、最初に触れている一人にしか発動しない。

加えて凡そ自分の身体の2倍以上の大きさの物には、効果がない。
今のところ、普通車くらいまではは通用した。

そして、それらの物は私から離れればまたそこで時間が止められてしまう。

つまり、私の異能では二人を同時に逃がす事が出来ない。

だから……



ドンッ ドンッ ドンッ

私は拳銃の引き金を引いた。

弾は拳銃と離れた瞬間時間が止められて、空中で静止する。

そして次に、組合が居るのと反対側の木の根を小刀で外す。木の根を外せば、後はひしゃげたドアのみ。
女の私でも何とか壊して外す事が出来た。

そこでやっと異能力を解除する。正直云って、限界値まで時間を止めてしまったため既に拙い。

「なッ!?」

青年が反対側で驚いているのが声で判った。

私は計三発撃ったが、一発は地面と繋がる葡萄の樹に、二発目、三発目は組合の二人の右足に向かって撃った。
これで少しは逃げやすい筈だ。

「春野…さん、ナオっミちゃ……早く……」

私は能力の影響で息を切らしながら、開けたドアから手を伸ばす。

「あ、はい!」

先ずは春野さん、ナオミちゃんの順番で車から引っ張り出す。
取り敢えず逃げなくては……

そこにタイミング善く淡い色の雪が降り始める。
ドンッと新たに反対側で銃声が聞こえた。

「ナオミ!」

気がつけば、木の根のすぐ下に谷崎さんが立っていた。

「逃げるンだ!」
「兄様!」

谷崎さんが手を差し伸べてくれて、私達はそれぞれ木の根から降りる。

「五分後、麓の鉄道を旅客列車が通る!十秒だけ止まる様に話を通してある。それに飛び乗れ!」

そう谷崎さんに送り出された私達は、必死に麓へ向けて走り出した。

既に異能力のせいで息が切れている状態で、二人の走りについて行くのはかなり厳しい。

ナオミちゃんが一所懸命私を引っ張ってくれるが、それでも中々厳しいものがある。

二人だけでも先に……

「椎名さん、もう少しですわ!頑張って下さい!」

「うん……」

それでも

『違うだろ!“二人を”じゃない。“三人とも”だ!』

乱歩さんの言葉が蘇る。
このまま二人を先に逃がしたら、またお説教されちゃうな……

私は少し口角を上げ、死ぬ気で足を動かした。


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