深夜の酒宴 [文スト]

□其ノ拾陸
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木々の間を三人で息を切らせながら走る。
いつ組合の追手が来ても、別段不思議ではない。相手は北米最大級の異能集団……高々街の探偵社の調査員が簡単に勝てるのなら苦労は無い。

「列車……! あれですわ!」

ナオミちゃんが指指す先には、旅客機関車の姿があった。

やったと思った時、動きを止めていた樹達が動き出し、私達に襲いかかる。

それは国木田さん達が抑えられた事を意味した。

呆気なく三人とも樹に捕えられてしまう。
そんな中、無情にも列車は煙を上げながら、此方の方に走って行く。

このままじゃ列車に乗れない…!

しかし、捕えられてしまった今、異能力を使おうが使うまいが関係ない。

どうすればいい!?

兎に角じたばたしてみるが、一向に解ける気配が無い。
万事休す……と思った時、

「…樹の動きが……止まった?」

春野さんが云う。気がつけば、樹の動きは止まって三人とも解放されていた。

「っ!
椎名さん!春野さん!」

ナオミちゃんがそう云って走り出す。私と春野さんもその後に続く。

ナオミちゃんから順に、何とか列車の最後尾の扉に飛び乗った。

「ハァ……ハァ……」

扉から中に入って、荒い呼吸を必死に整えた。あまり持久力は無いため、こういう時にすぐボロが出る。

席に移動しながら、安心した様子のナオミちゃんと春野さん。

「これで当面は安全ですわ。」

二人とも緊張が少し溶けたのか、笑みが見られる様になった。

「そうだね」

私も笑ってそう云う。
乱歩さんにちゃんと云ってやらなきゃ。ちゃんと三人無事に逃げましたよって。

三人とも少し浮かれていたせいか、一番後ろにいた春野さんに誰かがトンとぶつかる。

「あ、ご免なさい」

春野さんがすぐに謝る。

ぶつかったのは髪が左右で色の違う男の子だった。可愛らしい小さな帽子と変な人形を持っているのが印象的だ。

「……ご免なさい=H」

ぶつかった少年は、そう云って少し不思議そうな顔をしていたが、すぐにニコッと笑って

「こちらこそご免なさい。

お怪我は?」

と丁寧に返答した。


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