深夜の酒宴 [文スト]
□其ノ弐拾弐
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乱歩さんが割り出した夢野久作…通称Qの監禁場所に乗り込んだ。
太宰さんが。
昼間は社長と国木田さん、太宰さん、谷崎さんの四名がポートマフィアとの会合に行き、交渉した。折角だから私も少し見てみたい気もしたが、国木田さんに念押しされてお留守番させられてしまった。
こういう時、一介の事務員というのは辛いと思う。年数で云ったら国木田さんより先輩なのにな……
マフィアとの協力関係は結べ無かったらしいが、太宰さんは“ほぼ成功”だと何故か厭そうに云ってた。
それでその監禁施設には、太宰さんが単身で乗り込む事になったのだ。
この方が都合が善いらしい。
で、私は何してるかと云うと事務所で待機中である。とはいえ、何かしなきゃいけない訳じゃ無く、家に一人で居るのが危険だろうという事で此処で過ごしてるだけ……
要するに、暇だ。
しかも、何故か寝付けない。
真っ暗な中、給湯室のみ灯を付け、鍋を取り出して牛乳を温めていると、敦くんが入って来た。
「善い匂いですね」
「あ、敦くん。お疲れ様」
私は笑顔で振り返った。敦くんは只今一般的に云う宿直というやつだ。緊急時の為に、本日一日寝られない。
因みに私も一昨日に中っていたので、ちゃんと寝ずに頑張った。
「ホットミルク……ですか?」
敦くんが小首を傾げて訊く。その仕草が、何だか可愛らしくて仕方がない。
庇護欲が湧くというか……
まあ、どう考えても敦くんの方が強いんだけどね。
「うーん……敦くん、チョコレートって好き?」
敦くんの問いに曖昧な返事を返し、逆に問い掛ける。敦くんは少し吃りながらも答えた。
「え、あ……はい。好き……ですけど」
その答えに私は笑みを深める。そうして戸棚の中から一つの箱取り出した。箱には紙が貼られていて、『乱歩さんお断り』と書かれている。
私はそこからチョコを取り出して、鍋の中に放り込んでいく。白に茶色が徐々に混ざって、鍋に模様が浮かぶ。鍋の中で泡が弾けて、牛乳の匂いだったものから徐々にチョコレートの甘い匂いが立ち込めた。
「わぁああ……」
敦くんが目を輝かせた。私は口元を緩めて、二つのマグカップに鍋の中のチョコレートを注ぐ。
「じゃーん!
ホットチョコレート〜」
はい、どーぞと敦くんに一つを渡して、ササッとソファの方に歩いて行く。敦くんも向かい側の椅子に座った。
「いただきます!」
「はい、どーぞ」
笑顔の敦くんに私も微笑んで、ホットチョコレートを飲んだ。