深夜の酒宴 [文スト]
□其ノ弍拾伍
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海は善い。広い青は気持ちも少し広くしてくれる気がするから。
港に置かれた高く積み上げられた大きなコンテナの一つに腰掛ける。登るのに少し苦労したが、此処なら特等席だろう。
潮風に髪を靡かせながら、海の向こうを見つめる。青と青の境目……とても綺麗だと思う。
「……さて」
私は空の青を見ながら、小さく一言漏らすと、鞄から単眼鏡を取り出し、右目に中てる。小さな白い点の様に見えるが、どうやら組合の拠点『白鯨』で間違い無さそうだ。
ゆっくりとだが確実に此方に近付いている事が見て取れた。
潜入作戦から一時間…彼処で今敦くんが戦ってる。そして、鏡花ちゃんの戦いもだ。
視線を少しズラした先に、鏡花ちゃんが拘束されているヘリを見つけた。本当に、毎度探偵社の入社試験はヒヤヒヤさせられるものが多い。
一歩間違うとバッドエンドまっしぐらだからな。実際に国木田さんの入社試験もなかなか危なかったし……
そんなことを考えながら、私は静かにジッと鏡玉越しに白鯨を見ていた。戦いの様子はこの単眼鏡では勿論見えないが、見えない部分は想像で繋いだ。
ただ、どうも白鯨の上に立ってる人…敦くんとフィッツジェラルドだけでは無いような気がするな。誰だろ……
「探偵社内に居ろ、と云った筈だが?」
その時、急に後ろから飛んできた低く重く響く声。全く音も気配も無く後ろに立つ足運び。私は首をゆっくりと後ろに回した。
「社長……」
私は若干顔を引き攣らせながら、後ろに仁王立ちしている社長を見上げた。
社長はハァっと溜息をついて
「お前は毎回云う事を聴かないな。」
私は困った顔で笑いかける。
「すみません。」
「構わん。今に始まった事でもない。」
呆れた顔だが、特に非難めいた表情では無い。そのまま私が腰掛けた場所の右横に立ち、白鯨がある方向を向く。社長には肉眼でも見えているのだろうか。
そんな疑問は心に仕舞い、私も視線を海に戻し、持て余してぶら下がる脚をプラプラと揺らす。
特に改めて話す事も無く、お互い暫く黙り込んで居たが、社長が沈黙を破った。
「……麟」
顔は前を見たまま動かさず、静かに問い掛ける。
「はい、何ですか?」
「一つ訊いておきたい。
太宰めと逢った日、知っていたなら何故彼奴の事を黙って居た?云う機会は幾らでも有った筈だが。」
社長は少しだけ目線を左下……私の顔近くに向けて訊いてきた。