深夜の酒宴 [文スト]
□其ノ弍拾漆
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「依頼かぁ……」
敦くんが新しく持ち帰った依頼の封筒をひょいと受け取る。内容は軍警からの依頼だ。
「麟さん、遣りますか?」
「敦くん、私一応事務員だよ?」
うっかり忘れられそうだが、私は社員では無く事務員だ。そこは履き違え無いで欲しい。
探偵社の危機ともなれば積極的に動くが、元々荒事は得意では無いのだ。
「今の時間なら皆多分彼処だ」
私の推測に敦くんも納得した様だ。そうですね、と返事を返して歩き出す。私も後ろから追いかける。
向かったのは探偵社ビル一階。喫茶うずまき。此処ではかなりの頻度で探偵社員達が屯しており、社員の多くが給料日前等に善く世話になっている。
特に太宰さんに関しては常連である。……ツケの。
ガチャッとドアを敦くんが開くと、チリンッと入店を知らせるチャイムが鳴る。私は敦くんに続いて店に入った。
「皆さん 新しい依頼です。何方か希望者はーー」
「「「「パス」」」」
敦くんの呼び掛けに対して、うずまき内に居る社員達は口を揃えて答えた。全員見事にだれている。
「駄目だこりゃ……」
私は小さく零した。
太宰さんが四人席の椅子に思い切りもたれ掛かったまま応答する。
「反動だね……燃え尽き症候群だよ。組合戦は創立以来の大激戦だったから…」
本当に声に面倒臭いと云う気持ちがぎっしり込められてる。之は如何云っても駄目な奴だな。
「あれ?そう云えば国木田さんは?」
敦くんが喫茶店内を見渡して訊く。其れに太宰さんがもたれ掛かる体制は動かさず答える。
「上
何か逆に遣る気出てた。」
そう云えば、凄い勢いでパソコンと万年筆動かしながら、何時何分に何するみたいな事叫んでた気がする。
「おばちゃんお代わり」
「はいよ」
太宰さんがそう云いながら此処の店員であるおばちゃんにコップを差し出す。
「あら〜麟ちゃん、久しぶり〜」
おばちゃんはコップを受け取りながら、ニコニコと反対の手を振る。
「お知り合いなんですか?」
少し周りの社員と違った対応を疑問に思ったのか、敦くんが問い掛ける。
「あぁ、敦くんは知らないんだっけ?高校の時此処でアルバイトしてたんだよ。
紅茶は負けないレベルまで行ったんだけど、珈琲だけはやっぱり店長に勝てないんだよね。」
アハハと笑いかける。手取り足取り教えて貰ったんだけどね。
方法も温度も一緒の筈なのだが何と云うか…何かが違うのだ。
珈琲もかなり奥が深い……