深夜の酒宴 [文スト]
□其ノ弍拾玖
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少し思った事なのだが、若しかして敦くんってモテるんだろうか。
探偵社の窓から外を見てみると、敦くんが元組合の徒弟だった赤髪の女の子に引っ張られていた。
確か今日は政府から鏡花ちゃんの入社が認定されて初めての出社日で、敦くんは鏡花ちゃんに仕事を教えてたはずだが……
何故か鏡花ちゃんはおらず、その敦くんはうずまきの外で引き摺られている。
私は窓枠に頬杖をついて様子を見ていた。
残念ながら、特別耳が善い訳ではない為内容は聴こえないが、何となく仲が善さそうだ。
鏡花ちゃんにも凄く好かれてるみたいだし、ルーシー…だっけ?其の子も何か意識してるっぽいし……
青春だね〜
うんうん、と一人で頷いていると頭に軽く衝撃が来る。書類で頭を軽く叩かれた様だ。振り返ると何時も通り不機嫌そうな国木田さんが立っていた。
「貴様、今日分の書類整理も終わっていないと云うのに俺の目の前で堂々とサボるとは善い度胸だな。」
私はブスっと膨れつつ、
「堂々と出社して無い太宰さんにはお咎め無しですか?」
と嫌味を云うと国木田さんがお腹を抑えて顰めっ面をした。いつもの特殊な持病の様だ。
「治りませんねぇ、太宰症候群。」
私は苦笑しながら国木田さんに云う。
私が命名した通称太宰症候群は、国木田さんに太宰さんが近付く、話題が出る等の接触があった際、腹痛、目眩など諸症状が出るというものである。
「笑い事では無い。この前も仕事中に天啓を得たとかで女性を口説きに行くわ、彼処は首吊りの名所だから自殺志望の美女いるかもだなどと嬉嬉として語り出すわで酷い目に遭った。」
右手で相変わらずお腹を押さえたまま不愉快そうに云う国木田さん。太宰の話題だけでダメージが来るのだから、此の人もう死ぬかもしれない。
「私も之を外して貰いたいのに、太宰さんまた逃げてちゃって」
私はこの前太宰さんに付けられたブレスレットを国木田さんに見せながら云った。
自力で外そうと試みたが、外すための金具等が全く見つからず、結局太宰さん本人に外して貰うしか方法が無いのだ。ここまで来るとブレスレットと云うよりも手錠だ。
「贈呈品なら喜んだらどうだ?」
「国木田さんだったら太宰さんから自力で取れない腕時計とか渡されて喜べるんですか?」
私がそう云うと国木田さんが黙った。
他人事だからって適当に云うな。
そんな時、後ろからひょこっと与謝野さんが顔を覗かせる。
「其れを外したら善いのかい?」
与謝野さんが事も無げに云う。私はバッと飛び付いた。
「外し方判るんですか!?」
「いや?」
「え、じゃあどうやって……」
私の問いに与謝野さんはにっと笑って
「手首を切り落としてからブレスレットを外せば…」「お断りします!!」
「ちゃんと治療してや…」「厭です!!!」
皆まで云わさず全力で断った。それなら太宰さんをとっちめて外して貰う方が善い。