重き流れのなかに [文スト]
□道化の独言
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今日も気持ち良く自殺日和。
そういう訳で川を流れていた筈だったのだが、生憎また死にそびれた。
気が付くとタクシーに乗せられており、薄目で隣を確認すると麟ちゃんが座っていた。
そこそこ大きなマンションの前でタクシーは止まった。どうやら此処は麟ちゃんの家らしい。
「ぐぇ…重い……」
タクシーから下ろした私を背負いながら、自分の部屋へ運ぼうとする。残念ながら身長差で足は床に付いたままズルズルと引き摺られていく。
莫迦な子だなぁ
私は彼女の背中で嘲笑を浮かべた。
あれだけ私を敵だ、悪魔だみたいな反応しておいて、結局こうしてほっとけないというのだから莫迦だと云わずに何と云えば良いのか。
きっと彼女の事だから、何も考えずに取り敢えず家に連れてきたんだろう。
そして、何だかんだ云ってお人好しな彼女は、可哀想な私にご飯とお酒に温かいシャワーと寝床を提供してくれる。
考えれば考えるほど愉しすぎる。
必死に笑いを堪えていると、部屋に到着したらしく玄関にドスンと下ろされた。
痛いなぁ…
そのまま起きてやろうかとも思ったが、それを必死に抑えて寝たフリを続けた。
それでも流石はお人好しの麟ちゃん。バスタオルを毛布の様に私にかけて、自分の風呂の用意を始めた。
却説、何時起きようか?
今は少しイラついてる様だから、シャワー上がりが一番良いだろう。
そう思っていた時に、ゴンッと物凄い音が玄関に響いた。
それと同時に頭部を凄まじい痛みが襲う。
思い切り拳骨で殴られてしまった。真逆のグーだ。凄く痛い。
それで一応気が済んだのか、麟ちゃんは鼻歌交じりに風呂に入っていった。
「イタタ
全く……面白いのは好いのだけれど、こうも痛いんじゃあ毎回はキツいね。」
彼女が浴室に入るのを見計らって、上体を起こしてから右手で反対側の肩をコンコンと叩く。
どうやら海まで流されていたらしく、塩で身体がギシギシするのが判る。
一応、麟ちゃんがかけてくれたバスタオルで身体と髪を拭いた。
改めて麟ちゃんの家をぐるっと見渡す。
ごく一般的な一人暮らしの模範の様な玄関だ。あまり余計な物は置かない主義のようだが、最低限の装飾はされている。
ふーんと見回していると、麟ちゃんが浴室から出てきた様なので、元の体制に戻る。
ガラッと思ったより勢い良くドアが開いて麟が出てきた。