重き流れのなかに [文スト]
□熱
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ピピピピッ ピピピピッ
電子音が寝室に響き渡る。私は、ゆっくりした動きで音源を脇から取り出した。液晶に映し出された数字を見て小さく溜息をつく。
「38.9℃……やっぱ風邪かな……」
掠れた声でそう云うと、すぐにハックシュン!と大きな嚔が出て、棚からティッシュを漁って取り出し鼻をかんだ。
頭もフラフラするし、寒気もする。後は鼻水と喉の痛み……
今日は溜まってた資料の整理をしようと思ってたんだけど……
流石に体調不良の状態で職場に無事に辿り着く自信はないし、皆に迷惑をかける姿しか思い浮かばない。
よし、休もう。
そう思い立った私は、真っ先に携帯電話を取った……訳ではなくて、まず温かい緑茶を淹れる。それで喉を潤した後、更にのど飴を口に入れ、鼻水は限界まで
無い状態にして、やっと探偵社に電話を掛けた。
コール音が二回程鳴って、相手が電話を取った。
『はい、此方武装探偵社です』
「あ、谷崎くん。おはようございま〜す!」
私は出来るだけ元気いっぱいの口調で電話に応対した。声はまだ少し掠れているが、この程度なら電話越しには伝わらない。
『椎名さん?…遅いじゃないですか。何時もの時間に出勤してないって国木田さんがカンカンですよ?』
谷崎くんが少し声量を落として、コソコソ声で返事をしてくれる。
「それは怖そうですねぇ…。すみません、今日はお休みします!」
『えぇ!?……ぇあっ』
何か変な声が聞こえた気もするが、私は気にせず続ける。
「国木田さんも怖いですし、今日は少し用事が…」
『仕事サボって何の用事だ?』
急に低い声が電話越しに聞こえてくる。
げっ……国木田さん……
…………この人偶に鋭いから厭なんだけどなぁ
「あ、は、は、国木田さん…おはようございます。」
引き攣った笑いを漏らしながら、なんとか挨拶する。
『何がおはようございますだ!
今日お前には、溜めこんだ乱歩さんの解決事件ファイル整理と護衛依頼の資料作成、明日までに必要な捜査の潜入先へのルート調査の仕事があったはずだが?
一体どれだけ重要な用事なのか聞かせて貰おうか。』
延々と国木田さんが説教をしてくれるが、私は只今それどころじゃない。ヤバい……これ以上は鼻水が垂れる。このままじゃバレる。
「いやぁ、国木田さんなら一人でも何とかなりますよ!ま、そう云う事です!!宜しくお願いしまーす」
そう云ってぶつ切りした。そして、すぐさまティッシュで鼻水を拭く。本当に危なかった……
電話を置いて、私は少し気が抜けたのか、ズルズルっと壁伝いに座り込んだ。