重き流れのなかに [文スト]
□情人節
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「バレンタイン?」
対面して事務用椅子に座る鏡花ちゃんが、コテンと首を傾げながら聞き返した。そんな仕草が相変わらず可愛らしい。
「そうそう。チョコレートを好きな人に渡す日なんだよ。」
私は笑みを浮かべながらピッと人差し指を上げて、簡単に説明する。元々は別にそんな催しでは無く、チョコレート業界の策略らしいが…楽しければ何でも善いのだ。
最近は本命チョコに加えて義理チョコ、友チョコ、自分チョコがあるらしい。
「麟さんは手作りなさいますの?」
ナオミちゃんが後ろからひょこっと顔を出して、私に訊いてきた。私はヘラッと笑って答える。
「そうするよ。というか、最早作るのが恒例だからね。ちゃんと全員に配るつもりだから、期待してて」
去年も休みの日を利用して、フォンダンショコラとクッキーを探偵社で面識があった人達には配っている。
さすがに、知らない人に手作りのお菓子をもらっても仕方ないだろうし、という事で配ったのは社長や乱歩さん、与謝野さん、国木田さんにのみだ。
「楽しみですわね!」
ニコニコッと楽しそうに笑うナオミちゃん。鏡花ちゃんも少し興味が湧いたのか口元が少し緩んでいる。
「ナオミちゃんはやっぱりお兄さんに渡すの?」
「そーですわね。もちろん、本命は兄様ですけど、ちゃんと皆さんにもご用意しますわ!」
ふふっと人差し指を下唇に当て、少し色っぽく笑うナオミちゃん。私よりも年下らしいが、とてもそうは思えない色気である。
白旗です……
私は悲しい考えをブンブンと首を振って振り払い、気を取り直して鏡花ちゃんに訊く。
「鏡花ちゃんも少し興味湧いた?」
私が問いかけると、
「うん」
と云いながら少し頷く。やっぱり女の子だもんね。
「じゃあさ、良かったら今度の日曜日ウチで一緒に作らない?」
ニッと笑って鏡花ちゃんを誘う。鏡花ちゃんが少し顔を上げて
「善いの?」
……どうしよう。すごく可愛いんですけど。何て云うんだろう……持ち帰りたくなるかわいさ?
「善いよ善いよ!一緒につくろっ!」
ニコニコ笑って手招きする。というか自然とニヤけてしまう。今の表情を見て誘拐犯に間違われないか少し心配だ。
兎にも角にも、こうして日曜日可愛らしい鏡花ちゃんとのお菓子作りが決定したのだった。