重き流れのなかに [文スト]
□傘に就いて
1ページ/4ページ
しまった……
私は自身の持つ鞄の中を見て項垂れた。傘を忘れてしまったのだ。
かなり強めの雨音が響き、目の前の道を車が通る度に大量の水が跳ねあげられる。
夕飯の買い物が終わり、店から出ようとしたらこの有様である。
膝から崩れ落ちてしまいたい……。
仕方が無いので、もう少し弱まるまで待とうと店の屋根部分の下で雨宿りする事にした。
ジッとどんよりとした雲を見上げる。
雨音は寧ろ前より強く響いており、ザーザーくらいだったのがバシャバシャと音を立てていた。
最悪だ……
これは待っていても駄目な奴かな
そう判断した私は諦めて屋根の外に出ようとする。
その瞬間グイと後ろから勢いよく手を引かれた。
「止めといた方が善いよ」
急な事で吃驚して後ろを振り返ると、ニコッと笑みを浮かべた太宰さんが立っていた。
「い…っ!?何時から其処に!?」
仰け反った私を見ると更に愉しそうに笑みを深める。
「何時って麟ちゃんが雨宿りを初めてすぐくらいから」
はい?
ずっと見てたの此の人…?
私は気味が悪くなって後ろにスススッと下がった。
だって、殆どそれストーカーですよね?犯罪ですよね?
太宰さんは相変わらずニコニコしたまま続ける。
「いやぁ、今日は入水でもしとこうかなと思って川に行ったんだけど生憎雨が降ってきてしまってね。
濁流に揉まれるのは厭だったから止めて戻ろうとしたら、麟ちゃんが買い物から出てくるのが見えて、傘を持ってたら借りようと思ったんだけど、持ってないみたいだったから後ろにこっそり立ってた。」
悪びれる事無くそう云い放つ太宰さん。確かに大体の経緯は判ったが、それにしてもそんな真っ当な理由じゃない。
大体自殺を散歩のノリで行うのは如何なものか……
然し、私は溜め息をつきながらそうですか、と答えるだけでまた空を見る事に専念した。
寧ろ話せば話す程無駄に疲れる。
その一方で、そんなとこはお構いなしと云った様に太宰さんは話し掛けてくる。
「そう云えば、麟ちゃん。」
「……なんですか?」
「ずっと思っていたのだけど、折り畳み傘鞄の中に入ってるよね?」
「え?」
私は鞄の中をもう一度見返す。佳く見てみると、少し見えにくい所に普段愛用している折り畳み傘が入っていた。
「アレ!?」
「麟ちゃんってやっぱり結構抜けてるよねー」
ヘラヘラと笑う太宰さんに少し怒りを憶えたが、云っている事に否定できず黙り込んだ。
そして、無言のまま折り畳み傘を出してパッと広げる。
「じゃあ、探偵社まで借りるよ!」
いつの間にか傘を取られており、ほらほらーと傘の反対側に手を引かれた。
所謂相合傘と云うやつである。
とはいえ、この状況じゃ仕方ない。
「はい……」
私は不本意だということが伝わる様に不貞腐れながら云って、太宰さんと反対側に入った。