重き流れのなかに [文スト]

□桜
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……眠い。
とにかく眠い……

まだ日も出ていない時間帯に、私は重い瞼を擦りながら起き上がった。そのままのそのそと台所に立ち、冷蔵庫から卵を取り出した。

冷蔵庫の中には昨日から仕込んでおいたお菜が冷やされていた。容器の中には、煮物やサラダが入っていて、善い塩梅に味も染みている様だ。

卵と出汁、砂糖、塩を混ぜ少し醤油も垂らす。油を引いたフライパンを火にかけ、何回かに分けてクルンと包む。
そのままベーコン巻きを作る準備を始める。

その横では昨日漬けておいた鶏肉に小麦粉をまぶして、油の中へ入れた。
同じく下拵えして冷凍していた海老と蓮根を揚げて、きつね色になる少し前に上げた。

時間通りに炊けたご飯を取り出し、梅に昆布、鮭のほぐし身を入れて重箱の一番下の段に詰める。

次に真ん中の段へ、先程揚げた唐揚げ、エビフライ、蓮根の挟み揚げ、そして準備していた煮物を詰める。

一番上の段にはサラダ、煮豆、フルーツ等を詰めた。
そして、一番下に四段目を新しく用意して準備完了だ。

今日は探偵社の皆でお花見をしようという事で、全員用に弁当を作っていたのだ。

グッと背伸びをして、自分の身支度を済ませ重箱を風呂敷で包み、出来栄えの良さに思わずニヤつく。

うーん、頑張ったな私。福沢さん褒めて呉れるかなぁ〜

なんてウキウキで考えながら元気佳く玄関を開けた。
もう太陽も出てきて、雲一つない…とまでは行かなかったが、綺麗に晴れ渡っていた。

ちなみに、花見の日程は乱歩さんが決めた。天気まで推理出来るなら、もし探偵社が廃業しても天気予報士になれると思う。

花見の会場へ向かうと、場所取りを命じられていた敦君が敷物に座ったまま手を振る。鏡花ちゃんは横で静かに正座していた。

桜が風に舞ってその中で座る二人は非常に絵になる。

「麟さん、此方(こっち)です。早かったですね」

笑顔で私を呼んで呉れる敦君に、私も笑顔で手を振り返した。

「敦君、鏡花ちゃん、お疲れ様〜。大変だったでしょ?
準備出来ちゃったからね。差し入れも兼ねてだよ」

そう云いながら、また別に用意しておいた猫と兎のクッキーが入った包みを渡す。最近敦君達に餌付けする頻度がかなり高い気がする。
まあ、楽しいから問題ないけど。

「え、善いんですか?有難うございます!」

そう云いつつ食べ始める敦君。

「美味しい…」

そう云ってキラキラとした笑みを浮かべる鏡花ちゃん。本当に可愛い。敦くんも美味しそうに横で食べていた。
それを笑って見ている私。

そんな平和な時間は急に終わりを告げる。

ゴンッ

「グェ!!」

といきなり凄まじい音が轟いて、気が付くと敦君が砂色の化け物に押し潰されていた。
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