深夜の酒宴 [文スト]

□其ノ弍
2ページ/3ページ

まさか……まさか、あの死神とこんな所で再会する羽目になるとは……。社長から探偵社の状況は偶に聞いていたが、まさか本当に本人だったとは……

多分、隠しきれていなかっただろうし、怯えられた本人にもきっとバレていただろう。
それでも誰も言及しては来なかった。

しかし、本当に一緒の職場になるなんて……神様も変な悪戯をしたものだ。
私はまともに存在を信じた事の無い神様に向かって呪ってやりたくなった。

目の前の死神さんは、一瞬私を探るようなまるで達観している様な眼をしたが、すぐにその眼を笑みの中に隠して

「独りで心中は出来ないんだが……。まあ、とりあえず自己紹介がまだだったね。私は太宰。宜しくね。」

そう云って右手を差し出してきた。

あの時とは少し違った、笑み。本当に違うのか、私が変わったのかは判らないけれど…

「はい。こちらこそ」

私は取り敢えず笑って握手に応じた。それに気を良くしたのか握った手をブンブン振り回して、宜しく〜と笑う太宰さん。

却説(さて)麟、お前はあそこの椅子を使ってくれ。」

そう言って国木田さんに指されたのは元々私が使っていたデスク。他より少し小さく日当り良好。昔から育てていた観葉植物も、国木田さんのおかげか綺麗なままだった。

「わぁ、ちゃんと取っといてくれたんですね。ありがとうございます!」

少し嬉しくなった私は、ニコッと多分満面の笑みで微笑みかける。照れたのか国木田さんが

「ああ。」

と言いながらそっぽを向いてしまった。色々変わったけど、この人達が一緒何だから大丈夫…元死神なんて全然怖くない。
不思議とそう思えた。自分もそれなりには成長したのかもしれない。

前とは違って死神自身の事も調べて有るというのは大きかった。

その後、宮沢賢治という麦わら帽子を被った少年と仲が良すぎて少し怖い谷崎潤一郎君、妹のナオミさんにも挨拶した。

それにしても……最低限度の人事状況は社長から話を聞いていたのだが、思ったより約二年間の空白は大きかった様だ。
前より賑やかだし、何より楽しそうだ。まあ、不安要素も大きいが…

一段落すると

却説(さぁて)、んじゃぁ早速麟には紅茶をお願いしようかな。」

乱歩さんがニッと笑いながら顔を覗かせる。私と仕事をした事がある与謝野さんや国木田さんは納得しているが、新しく入った人達は何の事か判らず首を傾げていた。

私は口角を少しだけ上げて、

「本当に早速ですね。
解りました。久しぶりに頑張ってやりますよ。」

軽く腕まくりしながら給湯室に向かった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ