深夜の酒宴 [文スト]
□其ノ参
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事務仕事を行っていると横で国木田さんが、緊張しきった敦くんにアドバイスしていた。
「おい、小僧。不運かつ不幸なお前の短い人生に些かの同情が無いでもない。
故に、この街で生き残るコツを一つだけ教えてやる。」
そう言いながら国木田さんの“理想”と書かれたいつもの手帳から写真を1枚取り出して敦くんに見せる。
「こいつには会うな。会ったら逃げろ。」
写真は私の位置では見えないが、おそらくマフィアの指名手配犯……
「この人は…?」
不思議そうな敦くん。ずっと施設にいたと聞いたし、多分あまり世情に詳しくは無いのだろうな。
「マフィアだよ。尤も、他に呼びようが無いからそう呼ばれているだけだけどね。」
優しげな口調で説明する太宰さん。その声を聞きながら私は人知れず拳を握った。
……六年前の忌まわしい記憶……消し去ってしまえるなら、今頃何も考えず楽しい探偵社生活をおくれたのだろうが……
国木田さんは芥川龍之介のことを説明していたらしい。彼は所謂“ポートマフィア”の戦闘員の一員。異能者であり、外套の形を自由に変える能力者だと聞いている。
顔をあげて、敵の姿をしっかりと見た。
おじさんが殺された日から二年間。私は可能な限り情報を集めて、この太宰という男について調べた。当時の調べだとポートマフィア五大幹部の一翼を担っていた人物だ。
一体何が目的で探偵社に?
若し、また私の居場所を奪おうというのなら、
今度こそ……持てる力全てで迎え撃ってやる。
「じゃあ、行ってきます。」
そう言って出かける敦くん達に
「行ってらっしゃい。」
と見送る。ふっと息を吐いて、私はパソコンの画面に視線を戻した。
落ち着け……
相手の目的も分からない以上、下手に動かず今日のとこはササッと事務仕事だけ片付けて福沢さんのとこに改めて挨拶しに……
そう思いながらパソコンを叩いていた時、速報のニュースが目に入った。
《軍警屯所にて爆破事件 一般人を含む4人が死亡
周辺に指名手配犯である芥川の姿が目撃されており、ポートマフィアが絡んだ事件と見られている。》
…………
なんと言うか……厭な予感…………
多分杞憂とは思うけど……昔から厭な予感程良く中る。
「すみません、国木田さん。ちょっと出てきます!」
バッとカバンを引っ掛けて敦くん達の後を追う。
「お、おい!!」
引き止める国木田さんを無視して探偵社を飛び出した。