深夜の酒宴 [文スト]

□其ノ参
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衝撃を受けすぎて能力解除が遅れてしまった。能力を解除したことで音も風も戻ってくる。

電話の相手は、太宰さんだった。

電話の奥で“うぉ!?太宰!!なんでお前がこんなトコに居るんだ!?”と国木田さんが叫んでいるのが聞こえる。

「ハァ…っ……だ…ざい…さん。なんで……」

能力使用直後で、マラソンの後みたいになっている呼吸を必死に押さえ込んで問い返す。

『私の異能は異能力を無効化する力だからね。何度か似たような体験をしたことはあったのだが……その様子だと君の異能力だったのかい?』

私の声すら揶揄(からか)う様に言う態度が鼻についたが、とりあえずそんな事を言っている場合ではない。

「……国木田さんに代わって下さい。まだ私は貴方を信用は出来ない。緊急事態なんです。代わって下さい。」

私は呼吸を整えながら太宰さんに頼む。

『私でも要件は聞けると思うけど?それとも、私の前職が関係しているのかな?』

何もかも見通す様に言った太宰さんに私の何かが切れた。
あの時浮かべていた歳にそぐわぬ冷たい笑みも、倒れていったおじさんの虚空を見つめた顔も一度だって忘れたことは無い。
彼の事は能力を駆使してある程度調べ上げた。でも、探偵社が認めたんだ。だったら信用しなくてはいけない。そうは判っていても、その前に感情が勝ってしまった。

「っ!……えぇ、そうです!人を殺めるような真似をしていた人なんかに!!」

そこまで怒鳴ってからハッとする。道の中で電話先に向かって大声で怒鳴るというのは、時間の動き出している道中では少し目立ってしまっていた。

落ち着け…今はそれ所じゃない。それに、彼を刺激する事は不利益しか生まない。

「……いえ、……そんな場合じゃありません。私の力では全員助けられない。依頼人はポートマフィアの刺客です。貴方が若し、ポートマフィアでなく今は探偵社の人間だというなら……

……助けて下さい。」

必死に絞り出した一言だったが、そう言うのと同時に電話が切れた。
私は頭が真っ白になった。

!!

そんな…………見捨てられた?やっぱり敵を信用したのが間違いだった?

残念なことに国木田さんや社長、乱歩さんの電話番号は分からない。故に、誰かに助けを呼ぶ手段はない。

このままじゃ……

私はとりあえず軍警に電話を入れて裏路地に向かって走った。
そして裏路地に向かって入って行く真っ黒な外套の男を見つけ、固まる。
私達探偵社の人間には嫌という程知られた人物。

「芥川……」

思わず呟いて、私は全力で袋小路に向けて走った。するとまさに、樋口を追い詰めていた谷崎さんが芥川の操る外套に貫かれた所だった。

「お兄ぃ様!!」

ナオミちゃんの叫び声と同時に前のめりに倒れる谷崎くん。

また……間に合わなかったのか……?

過去の叔父の姿が脳裏を過ぎった。

「谷崎さん!!」

私がそい云ってその場に飛び出したことで全員の視線がコチラに向いた。

怖い……しかも、若しもの時の切り札も探偵社の人間の前にさらけ出す……でも……

隅で敦くんもナオミさんも震えてた。もう、異能力がバレる云々言っている場合じゃない。
早くポートマフィアを撒いて、谷崎さんを与謝野先生んとこに連れていく!!

「また、増えたか……」

芥川がチラリと振り返り私を見ながら、外套を獣の姿にして襲ってくる。
私はペンダントを握って叫んだ。

「異能力…『永遠なる序章』!!」

今は休憩時間以内……完全には時間も止まらないが……

襲ってくる外套のスピードが凡そ二分の一になる。私はそれを避けながら、バッグの中に入れてある小さなスタンガンを投げつけた。

一瞬怯んだ隙を突いて、懐に入りこみ横腹蹴り飛ばした。女の力とはいえスピードは二倍なのだから、その分攻撃は重い。そのまま走って敦君と谷崎君の方に向かう。

「クッ…」

ゆっくりした動きで後ろに引く芥川。
だが、あまり大きなダメージはないらしい。すぐに後ろから外套を伸ばしてコチラに迫ってくる。

後は敦くんと谷崎くん、ナオミちゃんを安全な所に……

鞄から閃光弾を取り出して叩きつけようとした直前。

そう思った所で私の能力が限界を迎えた。能力が消え去って、全ての時間の流れが元に戻る。

「椎名さん!!」

敦くんの叫び声。
私に残ったのは極度の疲労と眼前に迫って来る芥川の攻撃だった。

「!!」

芥川が口を右手で押さえながら、静かに云った。

「…ゲホッ……終わりだ。」

私の腹に向かって黒い獣が突き刺さった。
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