深夜の酒宴 [文スト]

□其ノ肆
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探偵社の医務室で目を覚ました私は、何もすることが出来ないまま天井を見つめていた。

……暇だ

身体は治して貰えるが、能力はきちんと発動する。
時間を止めて、更に停止時間の10倍の休憩時間(インターバル)を置かずに能力を発動すると弊害として身体が徐々に動き辛くなるのだ。これは能力が身体に作用して起こっているので、身体を治そうと体力が戻ろうと関係ない。数時間大人しくしてれば引いていくから、取り敢えず今日は絶対安静だ。


その時コツコツと足音が近づいてくる。

小さな3回のノック。

「……どうぞ。」

私は重たい上半身をゆっくり起き上がらせて応えた。するりと影が病室に入ってくる。
姿を見せたのはやはり太宰さんだった。

「無理はしなくて良いよ。身体を動かすのは辛いんでしょ?」

ニコニコと笑いながら云ってくる太宰さん。私は頭をゆっくりと横に振って

「いえ、態々来てくれたんですから、最低限の礼儀でしょう。
それに私は太宰さん、貴方に謝らなくてはなりませんから。」

「…なんの事?」

手を広げてオーバーに訊いてくる太宰さん。本当に不思議がってるのか演技なのかは、私には残念ながら見抜けなかった。

「電話先で言ってしまったことです。貴方を貶す様なことに加え、挑戦的な事を……
すみませんでした。」

私は今出来る最大まで頭を下げてお辞儀をした。すると、ふっと頭上で笑い声が漏れた。

私は頭は下げたまま、じっと上目遣いに太宰さんを見上げた。

「あ、いや少し意外だったなって。てっきり恨み言の一つや二つ言われると思ったんだけど…」

やっぱり、あの時……私の存在に気付いて見逃したのか。
憶えてるのがその証拠だ。

「確かに、貴方の事を恨んでないと言えば嘘になります。でも、私も貴方の事を何も知らなかった訳ではありません。」

私は六年前の事を思い出す。二年間の調べで、養父だったおじさんの働いていや工場は一般的な金属加工だけでなく、裏世界で銃火器を密売していた事が判っている。

「養父がグレーな仕事をしてい以上、この街では仕方のないことでしょう。貴方の役職を考えれば尚更……

……ポートマフィアの幹部さんでしたね。いや……当時は候補でしたっけ?」

ピクリと太宰さんが反応し、沈黙が広がる。
高校に上がるまでの約二年間、あの日が如何して起こったのか知りたくて、色んな場所に潜り込んで調べた。能力を使った10分間、警備も何も関係ない。書類のデータは一般人の私でも見放題だった。
私は太宰を見ないように顔を逸らして更に続けた。

「それなりにこの数年間貴方の事を調べました。勿論、それでも私は貴方じゃないし、私の調べも微々たるもの……殆ど“判らない”というのが正解です。

それでも、貴方は助けに来てくれた。探偵社員として……。なら、私は思い違いを謝らなくちゃ……」

悲鳴をあげる身体を叱責しながら、もう一度太宰さんの顔をきちんと見る。

「本当にすみませんでした。虫が良すぎる話かもしれませんがこれからも、探偵社で一緒にやって行かせて貰えませんか?」

私はきちんと出来る範囲でもう一度礼をした。少しだけ顔を上げると盛大に吹き出して笑っている太宰さんが見えた。

「真面目だねぇ、国木田くんと良い勝負だ。

改めて、これから宜しくね。」

ニコニコと笑ったまま仲直りの握手〜と巫山戯ながら手を握られた。

!!

びっくりしたのは急に手を握られたからじゃない。身体がきちんと動くようになったからだ。
手を試しに握ったり開いたりしてみるが、普通に動き過ぎて逆に変な気分だ。

私はびっくりした様に太宰さんの顔を見ると、太宰さんは口角を上げて

「君ももう知ってると思うけど、私は“反異能力者”だからね。私が触れれば異能力者は例外なく能力が解除される。例え“自分の意識と関係ない能力”でも……。矢張り、動けなくなった原因は君の異能力に寄るものだったんだね。」

能力によるものかの確認をされただけか…一瞬喜んだ私が馬鹿みたいだ……

……

「喰えない人ですね。」

「よく言われるよ。」

飄々としたこの男だが、たまに見せる人を探る様な目線があるのは気づいていた。そして時折、昔のあの冷たい表情を思わせる。

それでも、取り敢えずは信用しよう。

彼はもう一応、探偵社の人間…私にとっては家族のようなモノなのだから。
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