深夜の酒宴 [文スト]

□其ノ伍
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私は買いたかった服と靴、それから好みの単行本を買い込んで喫茶店で寛いでいた。

ダージリンをストレートでちびちび飲みながら、買ったばかりの単行本を読み漁る。

本は何が起こるか分からない様な展開、それでいて所々笑わせてくれる文章に一目惚れして衝動買いしたものだ。

気が付くと日も傾いて来ており、それなりに長い時間滞在していたらしい事に気づく。

タクシーを呼んで早いこと家に帰ろう。

免許証は持っているが、ペーパードライバーの為とてもじゃないが運転は出来ない。

タクシーは間もなく到着し、自宅へ向けて走り出した。

私は今探偵社の寮とは少し離れたマンションに住んでいる。

二年経って寮に戻ろうとしたら、敦くんが入ったことで満室になってしまっていたのだ。

なので、今は基本出勤手段は自転車と電車で行う。海も近くそこそこ良いマンションで私は気に入っている。別に追い出されたみたいなんて思わないし、寮に関しては気にしてない。

……うん、気にしてない。

家の近く海岸沿いをタクシーが走っていた時、海の中に足が浮かんでいるのが見えた。

事件!?

「!!
すみません!!ちょっと停ってもらって良いですか!?」

「え?あ…はい。」

「すみません!!追加料金はきちんと払いますから!」

慌てて車を停めてもらい、少し待ってもらう。海岸に近づいて行くと、海には綺麗にシンクロでもしているかの様に足が二本突き刺さっていた。

……どうしよう。本当に事件だったら困るし……

私は自分の服装を一瞬見てから、下着以外のものを脱ぎ捨てる。
恥ずかしいとか言ってる余裕はない。探偵社事務員として、さすがにこれくらいで怖気づいている場合じゃない。

バシャンと春の海の中に飛び込んだ。そこそこ泳ぎには自信があるが、冷たい水の中で身体が思うように動かない。

何とか逆さまの足の所まで行くと、男性のようだ。だが、見覚えがある足な気がする。

……すっごく厭な予感…………

……放置したくなったが、流石にここまで来て置いてけないしな……

浮かんでる足をむんずと掴んで岸の方に泳いで行った。

多分凄く厭そうな顔をしながら…


岸に着くと、運転手さんが引き上げる手伝ってくれた。私は慌てて着ていた上着を羽織る。

このまま街歩いたら変質者として留置所直行だな……

何とか運転手さんに手伝ってもらいながら溺れていた男をタクシーに詰め込む。

やっぱり想像していた通り溺れていたのは“太宰さん”だった。

最初から判ってたらちゃんと放置してたのに……もう少し視力が良ければと悔やんだが、後悔先に立たずだ。

「病院に連れてった方が……?」

後部座席の私と太宰さんをミラー越しに気にしながら運転手さんが訊く。

「いえ。すみません…この人一応連れなんでそのままの目的地で大丈夫です。」

面倒だがそのまま自宅まで運ぶ事にした。勿論、運転手さんには武装探偵社の者で出来れば他言無用でと頼んでおいた。

はぁ……なんでよりによってこの人を家に連れ込むなんて事になってるんだろう。

取り敢えず、太宰さんは玄関先に放置して、申し訳程度にバスタオルを被せておいた。

兎に角シャワー浴びよ!こんなベタベタ塩まみれでいたらキツい。

シャワーを浴びる為、玄関からすぐ右隣のドアを開けて風呂場に行く。

何となく玄関で寝ている太宰さんを見ると腹が立ったので、一発本気で拳骨を食らわせてから。
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