深夜の酒宴 [文スト]
□其ノ漆
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「「「社長!?」」」
慌てた様子で国木田さん、乱歩さん、谷崎くんが云う。
そりゃそうだ。
福沢さん…社長は滅多に事務所の仕事に口を出さない。
しかし、内部での大きな問題…殊にこういった案件の場合、介入してくれる。そして、何より人情を最も重んじた判断を下してくれる事が多い。
国木田さんが社長の方に進み出てほぼ直角に頭を下げる。
「申し訳ありません。業務が終了次第谷崎と情報を集めて……」
「必要ない」
そう続けようとした国木田さんを遮る様に、社長の一言が重く響き渡る。
カッと目を見開き、社長が続けて云った。
「全員聴け!新人が拐かされた。全員追躡に中れ!無事連れ戻すまで、現業務は凍結とする」
「凍結……?」
少し不満そうな乱歩さんの声が漏れる。国木田さんは頭を上げて、社長に訊く。
「しかし…幕僚護衛の仕事が……」
「私から連絡を入れる。案ずるな。小役人を待たせる程度の貸しは作ってある。」
全く関係ないと云うように腕組みしたまま社長は答える。でも、後で業務片付けるの大変そうだなぁ…
敦くん帰ってきたらデコピンしてちょっと憂さ晴らししちゃおっかな……
「社長、本当にいいの?」
乱歩さんがデスクの方から訊いた。
「何がだ、乱歩」
頬杖をついて乱歩さんが不満そうに云い返す。
「何がって…理屈で云えば…」
「仲間が窮地、助けねばならん。それ以上に重い理屈が此の世にあるのか?」
社長に一喝された乱歩さんは、不満気な顔をしていたが、椅子をくるりと回してそっぽを向いてしまった。昔から乱歩さんは社長に弱いからな……これなら大丈夫だろう。
乱歩さんのそんな後ろ姿に小さくベッと舌を出す。意地悪ばかり云うのが悪い。
ナオミちゃんの機転には本当にびっくりさせられる。おかげで、敦くんの救助に集中して中れそうだ。
「国木田」
「ハッ」
社長の声に眼鏡の位置を直しながら国木田さんは短く答える。
「三時間で連れ戻せ」
三時間!?乱歩さん抜きだと結構キツめだな……
社長はそう云いながら上着を翻して扉の向こうへ歩き出す。
「…ハッ!」
短い国木田さんの返事が事務所に響いた。
却説、私も市内の監視カメラの映像集めに取り掛かりますか……