深夜の酒宴 [文スト]

□其ノ捌
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……マジか

封筒の内容は幾つかの外回り業務だった。事件の際にお世話になった人への御礼や、日用品の買い出しといったどうでもいい仕事が山のように書かれていた。

そして中でも一番巫山戯るなと思ったのは最後に書かれた仕事だ。

探偵社社員によるツケの支払い

……絶対にあの自殺愛好家の仕業でしょうこれ。そこまでやんなきゃ行けないのか探偵社は……
社長もどういう心算(つもり)なんだろ……

大きく溜息をつきながら私は大通りを歩いて行った。


仕事を大方片付け、最後に先週の依頼でお世話になった花屋へと寄った。

「いらっしゃいませ〜」

少し年配の女性がにこやかに挨拶してくれた。私も笑い返しながら

「あ、すみません。私、武装探偵社の者です。先週は情報提供ありがとうございました」

ぺこりと頭を下げる。それに対して女性は更に笑を深めて

「あら〜。てっきりあの時のお兄さんが来るのかと思ってたわ」

「あの時のお兄さん…?」

先週の依頼…引き受けてたのは誰だったっけ?

「え〜っと…あ、そうそう。太宰さんって人」

彼奴か……

「な、何かご迷惑を……」

「いえねぇ、すんごい褒め上手なお兄さんだったからつい覚えてたのよ」

てっきり太宰さんの苦情が来ると思っていた私は少し驚いた。確かに、女性に対しては基本全年齢に対応してナンパ出来そうな人だが……

「そ、そうでしたか。」

私は少しぎこち無く笑った。いや、中身絶対氷の魔人かなんか住んでるでしょ……

別に今の太宰さんが嫌いな訳では無い筈だが、やっぱりマフィアの太宰さんの姿が初対面なので褒め上手のお兄さんというのはピンと来ない。探偵社で巫山戯てる時でさえ、偶にその姿が脳裏に浮かんでしまう。

「ええ。花の名前も詳しくてねぇ、色々お話ししてとても楽しくなっちゃったもの。気が付いたら訊かれて無いことまで喋ってたわ。」

そう云って笑う花屋の店主さん。多分、頭の回転が佳すぎて、どうすれば相手が情報をくれるか判ってるんだと思う。

私は暫く店主さんと雑談をしてから謝礼を渡して、花屋を去った。

太宰さんの実力……若しかしたら乱歩さんより上手な可能性すらある。もし、太宰さんを敵に回したら……きっと相手の逃げ場なんて残ってないんだろう。

普段の奇行からつい見下してしまいそうになるが、やはり最年少でポートマフィアの幹部になった実力は伊達じゃない。

全く……なんで本人が居ない時まであの人のこと考えなきゃいけないんだろ。


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