深夜の酒宴 [文スト]

□其ノ拾壱
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その警戒していた扉が開く瞬間は直ぐに来た。

此方の部屋に生えている大きな手が開いた扉に向かっていく。

敦くんが引きずり込まれたが、一部虎化して扉を掴み、引き込む力に対抗していた。

それを谷崎くんが細雪で扉が既に閉まったように偽装した。
本当に息ピッタリで私は心の中で拍手を送った。

敦くんはルーシーという少女に向かって叫ぶ。

「君は……思い違いをしている。

僕は強くも人気者でもない。寧ろ生きることは僕にとってずっと呪いだった。

だから、他人を妬み恨む情動(きもち)はよく判る。


本当は君にこの作戦を失敗して欲しくない
居場所を失って欲しくない!


でも、僕は弱くて未熟だから他に方法が思い付かない!」

敦くんはそう云ってグイッと飾帯(リボン)を引っ張った。

ルーシーは敦くんの所まで引っ張られ敦くんがそれを捕まえる。

「異能力を解除して皆を解放しろ。でないと君を奥の部屋に引きずり込む。」

敦くんの脅しにルーシーは反応する。どうやら、その脅しは有効らしい。

私はその様子を見守った。

「鍵がなければ扉は開かない。なら君が部屋に幽閉されれば、扉を開けられる人間は誰も居なくなる。
そうなってから異能を解除しても君は元の世界に戻れない。

違うか?」

「それは……」

「異能力は便利な支配道具じゃない。それは僕が善く判ってる。

自分の作った空間に死ぬまで、(いや)、死んだ後も囚われ続けたいか?」

「あたしは……失敗するわけには」
「今から手を離す。決断の時間は扉が閉まる一瞬しかないよ。」

「だめ!待って!!」

敦くんがパッと扉から手を離した。

「きゃああああああ!」

ルーシーの悲鳴が響いた。

どうなる……?


一一一
一一一一




気付くと道路のど真ん中に座り込んでいた。

助かった……

ていうか、本当に脱臼しているみたいで左腕が本気で上がらない。
左腕(これ)……与謝野さんに診せないと駄目だろうか……?

脳裏に高笑いしながら鉈を光らせる与謝野さんの姿が過ぎり、今すぐ逃げ出したくなる衝動に駆られた。

近くの病院にかかれば助かるかもしれない。

急いで逃げなければ……

「あああっエリスちゃん!」

後ろの方から飛んでもない大声が聞こえてくる。

此方からは後ろ姿なので判らないが、敦くんと話してる様子から察するに先程異能空間内にいた人物で敦くんに助言をしてくれた様だ。

話終えたらしく、白衣の男性と金髪の女の子は此方に向かって歩いてくる。

取り敢えず会釈くらいはしておこうと思い、すれ違う時に頭を下げる。
男性はニコッと笑ってから、ヒラヒラと手を振って行ってしまった。

しかし、何故か判らないが男性の顔を見た時、一瞬悪寒がした。振り返った時にはもう、男性は路地の方に消えてしまっていた。

あの人……何者?

何処かで…………



「っ!?」

見覚えはあった。
昔、太宰治について調べていた時に彼を資料上だが見たことがあった。

名前は確か、森鴎外。

ポートマフィアの首領(ボス)だ。


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