深夜の酒宴 [文スト]
□其ノ拾参
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治療が終わり身体“だけ”はピカピカになった社員達がそれぞれの机に戻された。
「全く、腑甲斐無いねェ。妾の異能が無きゃ今頃揃って土の下だよ。」
「工合は如何だ」
社長が加減を見に来ると、さっきまで沈んでいた国木田さんが慌てて立ち上がる。
「社長、申し訳ありません。俺が居ながら」
「佳い
少し出る」
「でも、今外出は……」
敦くんの言葉には耳を貸さず、社長は静かにそう告げて探偵社を出ていった。
「ありゃ相当鶏冠に来てるね。」
「はい。
彼処まで怒った社長は久しぶりです。」
溜め息混じりの与謝野さんに同意する。昔から知っていた事だが、社長は身内に何か有るのは本当に嫌いだからな。
今回の件と前回の件を考え、組合から宣戦布告を受けたという事は間違いないだろう。
本当に恐れていた事態が実際に起こってしまった。
異能力組織による全面戦争…最悪としか云い様がない。
今、太宰さんがマフィアの幹部から情報を引き出している頃だろう。
マフィアがどう動くか、組合がどう動くか……流石にそんなのは読めないけれど、対策を練らなければ探偵社はおしまいだ。
うーんと机で唸っていると、国木田さんが書類でポンと頭を叩く。
「い、いきなり何するんですか!」
「いきなりなわけがあるか、阿呆ゥ!
呼んでも反応せんからだ!!
先程社長から連絡があった。事務員は全員県外へ避難する様にとの事だ。
麟もナオミ達と避難するんだ。」
え……?
避難……?
「厭です!
私も一緒に居させてください!
私が食い下がった。
ずっと一緒に居た。
探偵社は私の家みたいなものだ。なのに、社の窮地に自分だけ離れて避難するなんて……
「子供みたいな事を云うんじゃない。
お前は事務員だ。確かに異能力あるし、戦力外とまでは俺には云えん。
だが、お前は少し甘い。それに自分を餌に無茶し過ぎる癖もある。
組合は強い。ポートマフィアも然りだ。無駄な犠牲は誰一人出したくない。」
そう云って少し困った顔で見下ろされた。改めて国木田さんの顔を見上げると、何時もは意思の強い瞳が珍しく揺れていた。
でも……と食い下がろうとする私の頭にポンと手を置く。
「避難するとはいえ、全く危険がないとは云えん。だから、事務員達はお前がしっかり守れ。」
……まるで子供を窘める様な理由付けだ。
だが、そんな顔の国木田さんに更に云い返せる程私は強情じゃない。
「………判りました。取り乱してすみません。」
仕方なく了承した。
誰一人も欠けることなく終えられる様に、私に出来る事をしっかりしなくてはいけない。
必要な持ち出し物を纏めて、私は春野さんとナオミちゃんと一緒に県外へ避難した。