深夜の酒宴 [文スト]

□其ノ拾伍
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金髪の青年がにこやかに話す。

「まさか裏をかかれるとは、さすが探偵社は隅々まで人員が行き届いてるね。

君達は葡萄の育て方を知ってる?

葡萄の枝は他の植物と活着する力が強い。だから接ぎ木して育てるのさ。

こんな風に」

そう云って青年は少し手を伸ばす。車体に絡まっていた木の根が、また更にキツく締まった。

私達は短く悲鳴を上げるが、今回はすぐに締まるのは止められた。

「僕の“葡萄の樹と身体を融合させる”能力は力も範囲も小さい。
けど、他の植物とこうして融合していけば、土地一帯の植物を身体の延長として使える。

地中の根で振動を検知して逃げる誰かさんを見つけるのも簡単って訳」

つまり、あの葡萄の樹が繋がってる限りこの土地全ての植物が敵になるって訳か……

もう一人の異能力が判らないのが問題だけど、取り敢えず此処から離れ無ければ……

「そう怖い顔しないでよ。少し頼みがあるだけさ。」

青年が笑ってそう云った。

「頼み…?悪党にとって頼むは利用して奪い使い捨てるの類義ですわ。」

ナオミちゃんが吐き捨てる様にそう云うと、青年は相変わらずにこやかに答える。

「悪?参ったな、どうも誤解があるみたいだ。組合は悪の組織じゃないよ、勿論僕も。

故郷に君くらいの歳の妹がいるんだ。大家族でね、夕食は戦争さ。
妹はパイが好物でいつも僕の分まで食べる。

でも可愛くてつい許しちゃうんだな。」

「……だったら、私達を逃がして」

ナオミちゃんがそう云った瞬間、青年は静かに笑う。

バキッと音を立てて、車が更にぺちゃんこになっていく。

「勘違いさせたなら済まないね。組合の任務は過酷だが払いが良いんだ。解任されたら故郷の家族が飢える。

分かるかい?

妹の為なら君がどうなろうと知ったことじゃない。」

青年の纏う空気が一瞬にして、黒くドロッとしたものに変わる。
谷崎さんと良く似た雰囲気だ。

守りたい者の為なら、世界であっても敵に回しそうな……

グイグイと更にキツく締め上げられていく木の根。
話で国木田さん達が来るまで時間稼ぎ出来るかとも思ったが、

……これ以上は限界だ。

「異能力一一
『永遠なる序章』!!」

私はペンダントを握って強く念を込める。

車の立てていた音は止まり、静寂が訪れる。

組合の二人が居るのと反対側の窓の隙間をすり抜けて外に出る。若干、割れた硝子で切ってしまってかなり痛い。

まずは逃げ道の確保だ。
私は車体に絡まっている木の根に掴まって、普段は持ち歩かない拳銃を鞄から取り出した。
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