深夜の酒宴 [文スト]
□其ノ拾玖
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私が考え込んでいる間に、いつの間にか部屋を出ていた太宰さんが帰ってくる。
持っていたのはビデオカメラと三脚……
何する気だ、この人……
しかし、特に何かする訳では無く壁に立て掛けて此方に歩いて来た。
椅子には鎖で完全に拘束された国木田さん。少し離れた所で、国木田さんの正面に太宰さん、それぞれ左右には賢治くんと与謝野さんが待機した。
私は部屋の奥にある荷物に腰掛けて様子を見守っていた。
そして、
「おい、太宰……」
国木田さんの目から赤い涙が零れ始める。
「始まったぞ……!」
開始の合図だった。その宣言から数秒後に、外から物凄い衝突音が聞こえてきた。車と車がぶつかった様な音だ。
一体、今ので何人が死んだのか……
目の前の鎖で繋がれた国木田さんも早速何かブツブツと云っているのが判る。
「……どうするんですか、太宰さん。」
私は目と耳を覆ってしまいたくなる気持ちを必死に抑えて、出来るだけ冷静な口調で訊く。
「ふーん、先ずは……」
太宰さんはそう云って部屋の出入口に向かって歩き出す。そして、先程持ってきたビデオカメラと三脚を国木田さんの前にセットした。
「…………は?」
私は太宰さんの一連の流れを見て、思わず間抜けた声が出た。
「お、流石だねェ〜」
与謝野さんは横で口角を上げながらその様子を見ていた。
「否、こうして撮っとけば後で国木田くんを苛める材料になるだろう?国木田くんの事だから、きっと怒りと恥ずかしさで暫く立ち直れないよ」
ニコニコと満面の笑みを浮かべて太宰さんはそう云った。
……この人、やっぱり唯の鬼だ…
国木田さんは理想がどうとか貴女の命を何よりもなんとかと泣き喚いていた。勿論、きっちり録画済みだ。
……国木田さん、ご愁傷さまです。もしかしたら、幻覚の中に居た方が倖せかもしれません。
私が荷物に座ったまま盛大に溜息をついていると、太宰さんにポンポンと肩を叩かれる。顔を上げるとニコッと笑う太宰さんの姿。
「取り敢えず、このままじゃヨコハマは壊滅だ。麟ちゃん、一寸手伝ってくれるかい?」
私は太宰さんを見上げる。この人がこの顔なら、恐らく大丈夫なんだろう。
……一寸腹が立つけど
私はふっと軽く息を吐いて
「判りました」
バッと立ち上がった。
「ふふ、そうこなくては」
太宰さんは楽しそうに笑って、付いて来給えと歩き出す。
そして、すぐにいつもの鞄を腰に巻き付け、太宰さんの後を追った。