重き流れのなかに [文スト]
□武蔵野への贈り物
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私は何食わぬ顔で出社する。勿論、国木田さんよりも早い時間に、だ。
国木田さんは午前8時丁度に出社してくる。そして、パソコンの電源を入れ、前日の資料を片付けて珈琲を飲む。
これがいつもの流れだ。
私は探偵社の皆に挨拶をしてから、自分の席に座った。もうすぐ国木田さんが出社してくる。
「おはようございます」
来た!
「おはようございます、国木田さん」
私は上機嫌で挨拶した。敦君や太宰さん達も普通に挨拶を返す。
国木田さんがいつもの動作で座ろうとした瞬間
ガコッ
国木田さんの椅子が音を立てて壊れる。勿論、昨日私が支えのネジを抜いて、代わりにネジっぽい塗装をした発泡スチロールに取り替えたのが原因である。
「うお!?」
国木田さんが尻もちをついて、慌てた敦君が駆け寄ってくる。太宰さんは横で大笑いしていた。
「国木田さん!?大丈夫ですか?」
「ああ……何だ?」
呆気なく発泡スチロールが見つかってしまった。
同時に国木田さんの顔色が少し青くなる。
「国木田さん?」
敦君が心配そうに訊くが国木田さんはわなわなと震えて
「麟!!いい加減大人になったならそろそろこの行事を止めろ!」
物凄い剣幕で怒鳴る。しかし、毎回の事だ。
「折角帰ってきたんですから、ちゃんと付き合って貰いますよ。2年間お預けだったんですから、ちゃんと今年はお祝いさせて貰います。」
私はにっこおと満面の笑みを浮かべて返した。国木田さんがガックリと項垂れる。
「おや、今日は8月30日かい。」
国木田さんの怒鳴り声で、与謝野さんが面白がりながら顔を覗かせた。
「何なんです?コレ……」
谷崎くんが少し困った顔で与謝野さんに訊く。
「今日は国木田の誕生日だからさ。
麟が国木田の歳の数だけ悪戯を仕掛けてンだよ。巻き込まれ無いように気をつけな。」
笑いながら与謝野さんが説明した。巻き込まれるの意味を理解出来なかったらしい、谷崎くんが続けて訊く。
「ま…巻き込まれるってのは?」
「最悪死ぬかもよ?」
ニヤッと笑って与謝野さんが脅かす。
「ひぇ!?」
失礼な……
「流石に死なないですよ?」
私がそこだけはしっかり訂正しておいた。
「いや、社会的に死ぬ可能性はあるだろ。」
乱歩さんが後ろから口を挟む。
全く身に覚えがないが……
「うおおお!?」
国木田さんが後ろで物凄い声を上げる。開いたパソコンには男女の卑猥な画像が壁紙に変えられていた。
犯人は勿論私である。
国木田さんの長い一日が始まった。