短編集(2018)

□想い病
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 今思えば非常に下らない。

 あのとき、どうして彼にあれほどまでも執着出来たのだろうか。

 告白された時に喜んで、嬉しいときに照れて、楽しいときに笑って、振られた時に泣いた。

 そのあとも泣いて、泣いて泣きまくって、一升瓶のお酒を全部水割りで飲んだって補いきれないほどの涙を流した。

 真っ赤なお鼻のトナカイさんよりも鼻を赤くさせた。

 今日も明日も明後日も、その先もずっと真っ暗闇だった。

 今でこそ立ち直り生活しているけれど、何がきっかけだったのかは覚えていない。

 ただひとつ言えるのは、これだけ。



 大人って結構ひとりぼっちだ。



 週に一度家に遊びに来る彼。ただただその楽しみのために生きている。

 もちろんあのときの彼とは別人だけれど、もしも振られるとするならば、私はまた鼻を真っ赤にさせて泣くだろう。

 彼はマイペース。彼はバカ、天然。彼は気が利かない。彼は不細工。彼はキスが下手、セックスが下手。

 だけど、彼は優しい。

 昨日来たばかりの彼を、もう欲している。

 彼がいなくて寂しい。寂しい。寂しい。

 彼に会いたい。会いたい。会いたい。

 彼に頭を撫でてもらいたい。撫でてもらいたい。撫でてもらいたい。

 彼に抱きつきたい。抱きつきたい。抱きつきたい。

 けれど、もう少し。もう少しで彼がこの家に引っ越してくる。

 同棲が始まる。

 一緒に暮らせば嫌になることもあるかもしれない。



 想い病。



 こんなものが発症しているのは今だけかもしれない。
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