短編集(2018)
□セミロングとポニーテール
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私たちは双子だ。顔はもちろんそっくりで体型も身長も似ている。見極める方法としては髪型ぐらい。
高校三年生にもなって、同じ部屋。不満はほとんどない。私たちは仲が良い。
けれど服の趣味や髪型とか好きなものとかは、そういうものは各々に好みがあって、そういうところも私たち双子を見分ける一つ方法なのかもしれない。
机の回りが青色が多い沙織。
机の回りが桃色が多い志織。
「どっちが振られても恨みっこなしだからね?」
「もちろん」
自分達の部屋で鏡を前に制服に着替え終わり髪の毛の寝癖をなおしているところだった。一つの鏡を二人で使っているので密着しながら櫛を動かす。
これもいつものことだ。時間をずらせば良いんだけど、朝起きてからすることの順番は全部同じなのだ。
「沙織はいつも通りストレート?」
「それは告白の仕方の話? 髪型の話?」
「髪型だよ。もしかして頻繁に告白してたの?」
「してるわけないでしょ。はじめてよ」
そう。私たちは同じ人を好きになった。
志織は勉強机の引き出しを開けるとハサミを取り出した。
「ねぇこれでばっさり切ってくれない?」
志織はハサミを沙織に差し出した。もちろん刃は自分の方を向けている。
私たちの髪の長さは同じぐらいで背中の真ん中ぐらいまで伸びていた。
「せっかく伸ばしたのに」
「イメチェンだよ。イメチェン」
「後悔しない?」
「しないしない」
「本当に?」
「うん。遅刻しちゃうから早く」
「絶対?」
「しつこいなぁ」
志織は椅子に座ると脚についているコロコロを転がして鏡の前まで来た。
「よしこい」
「切るよ。動かないで……ってどれぐらい切るの?」
「肩に少しかかるぐらい。セミロングってやつ?」
「あぁなるほど。似合うと思うよ」
バサッ。長い髪の毛の束は床へと落ちる。何度も何度も床に落ちる。
「はい。おしまい」
志織は椅子をくるくると回しながら切られたあとの髪の毛を全体的に見回した。
「良いね。ありがとう」
「どういたしまして」
「沙織も切ってあげようか?」
「良いよ。私これ気に入ってるし」
「ポニーテールにでもしてみれば? みんなみたいにさ」
「似合う?」
「似合う似合う。座って」
志織は椅子から立つと、沙織を椅子に座らせた。
「やってあげる」
志織は沙織の髪を束ねてポニーテールにした。
沙織も志織と同じように椅子をくるくると回しながら髪の毛をチェックする。
「悪くないね」
鏡を見て微笑んだ沙織の後ろで志織も微笑んでいた。
「ねぇ、沙織、それはそれでいいんだけどさ、いつ告白する?」
志織は勉強机に置いていた通学用鞄を手に取った。
「あれ? 今日だから髪型意気込んだんじゃないの?」
沙織はベッドに置いていた通学用鞄を手に取る。
「それはだからイメチェンだって」
「私だけ気合い入れたみたいじゃない」
沙織はドアを開けて部屋を出る。志織はそのあとに続く。
「とりあえずポニーテールで学校行って、どういう反応するか、まず確かめてみて、それからでもいいんじゃない?」
「そうだね。似合ってないって言われたら志織のお世辞だったってことだしね」
「疑ってるの?」
沙織と志織は玄関で靴を履いた。
「そうじゃないけど」
「私なんてもう戻せないんだからね」
私たちは玄関の扉を開けて、外へと出た。
「志織、私チャンスあったら今日言うから」
「あ、抜け駆けだ。沙織」