短編集(2015)

□陸の孤島
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「私、この町が好きよ」

 夕日が海の向こうに沈むとき。海岸で少女は呟いた。

「俺はあんまり好きじゃな……」

 俺の声は遮られる。なんでって、彼女は海を目掛けて、 大声で発した。"ただいまぁ〜!"と。

「まっ記憶ほとんどないんだけどね」

 呟いてクスクスと笑う。

 彼女は先日引っ越してきた女の子で、 同じ学年で初めての女の子だ。

「さっきなんか言いかけてた?」

 女の子の可愛い声に俺はドキッっとした。 彼女は砂浜に座り込み俺を見上げて聞いていた。

「いやだから、俺はあんまり好きじゃないって言ったんやけど」

「田舎、良いところじゃない。 ここに産まれたことを誇りに思うわ」

「俺は都会に憧れるわ。ずっと都会にいたんやろ? なんでも手の届くところにあるんやろ?」

「うーんまぁそうだけどいつもうるさいよ? 車とか電車とか、あっ座ったら?」

「あぁ」

 俺は彼女のとなりで三角座り。 緊張して三角座りをついしてしまった。

「だってさ! 陸の孤島だなんて言われてるんやで?」

「なんで?」

 鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして俺を覗き込んでくる。 三歳の頃にこの町から引っ越していった。 と、説明を受けたため知らなくても無理はないか。

 ショートヘアーでボーイッシュな顔。 出るところが全く出ていなくて、 それでもドキッとしてしまった俺はどんだけ女の子と関わりがない のか。それも田舎が嫌になる理由の一つ。 店なんてスーパー一つあればいいところ。

「……くん」

 俺は彼女の方を見たままだけど決して彼女に見とれてるわけやない ぞ。うっうん。

「……れいくん」

 ちゃんと話を聞いてる聞いてる! 会話してるやん! 大丈夫大丈夫!

「おーい!」

「うわっ!」

 耳元で大声が聞こえ俺はおもいっきり驚いた。 彼女はいつの間にか俺の真っ正面にしゃがみこんでいる。

「ご、ごめん」

 彼女の身体を上から下まで舐める……いやいやなんでもないっ、 うおっ、スカートスカート、中見えるって!パン、ツが……。

「あっあの……スカートの中が……」

「何? ん?」

 彼女は足元を見たまま……キャーッと悲鳴をあげた。

「見て、見てないから!」

 俺は一歩後ずさって逃げる準備を初めて……。

「エッチ!」

 彼女の平手打ちが俺の頬にヒットする。

 "いってぇー!"声には出せない痛みが身体を走る。




「さっきはごめんね。強くしすぎた」

 ちょっと場所を移動していた。 自動販売機で彼女はスポーツドリンクのペットボトルを買いグビグ ビと飲んでいる。俺は今月お小遣いがもうないので買えなかった。

「私の名前覚えた?」

「潮乃岬やろ? この町まんまやんか」

「でしょ? 理由は聞いたことないけど、 地名にちなんでるんだったら嬉しいなぁ」

「聞いたら?」

「そうなんだけどね違ったらショックだから怖くって」

「今度俺が聞いたろか?」

「いいよいいよそんな」

 潮乃は小さく首を振った。

「もう暗くなるやん。送るからさ」

 俺は携帯電話で時間を確認する。

「いいよ。すぐそこだし、大丈夫。」

「そう?」

「これお詫びにあげるよ。ちょっとしか残ってないけど」

 無理やり手に握らされたそれは潮乃の飲んでいたスポーツドリンクだった。

「じゃあまた明日学校でね」

「あぁばいばい」

 頭の中はスポーツドリンクのことで一杯。上の空だ。

 いつの間にか潮乃は数メートル先にいた。

「私、この町が好きよ……れーーーもね !」

「今なんて?」

 風のせいで途中から聞こえにくくてなんて言っているかわからなかった。

「なんでもないよ! もう言わない!」

「なんやねんそれ! でも、俺も好きになれるように頑張るわ」

 俺……好きな人がいるこの町やったら好きになれるかも。
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