短編集(2015)

□ハズレの四十六番
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 身体を刺されたことがありますか?

 痒い。掻きたい。掻いてしまった。あぁ治りが遅くなる。薬、薬、薬、かゆみ止めがぁ〜―ーーあっ、ないーーー痒い。あっ!また、掻いてしまった。

 凄く痒くなりますよね。自分は大嫌いです。


 とあるネットカフェ。

 常連客の中で気づいている人が何人いるのか知らないけれど、自分の中での通称『ハズレの四十六番』

 オープン席と個室はいくつか種類があるがその中で人気のマット。しかしこのマットにはハズレが存在する。

 自動ドアが開く。

「いらっしゃいませ」

 店員の第一声。

「えっと〜マットで」

 はじめから決まってはいるけれど、何故か一応迷っているような仕草をしてしまう。

「禁煙ですか?喫煙ですか?」

「喫煙で」

 タバコは吸わない。ただ男性向け漫画を読むなら喫煙が近いし、ドリンクバーは喫煙にしかないからだ。禁煙からわざわざ取りに来るのもめんどくさい。フロントを真ん中に挟み左右で禁煙と喫煙がわかれているから店員と毎回毎回顔をあわせるのも嫌だ。

 いびき、咳、激しい方は退出して頂きます。みたいな張り紙をしてるけれど仕方がないじゃないか!と、つい突っ込みを入れてしまいそうになる。携帯電話をマナーモードにする。それは礼儀としてやってはいるけれど、目覚まし変わりにアラームを使うのでどの客も朝はうるさい。店員も目を閉じて何も言ってこない。耳と口までも閉じているか。何処かの猿か。

「喫煙の四十六番になります。ごゆっくりどうぞ」

 チッ、ハズレか。と思いながら、自分は軽く一礼をしてフロントを後にする。まずはドリンクバーで入れてきたドリンクを片手に漫画の新刊をチェックしてーーーそう、これは本当にちょっとした『ハズレの四十六番』の実体験である。

 自分はドリンクと新刊と共にハズレの四十六番に足を踏み入れた。

 パソコンを起動させて、インターネットで動画を見る。漫画を読み、眠たくなってきたら横になる。終電を逃したりしない限りは利用することのないネットカフェ。もう略称はネカフェじゃなくて寝カフェじゃないのか。とか、くだらないことを考えながら。

 おやすみなさい。

 誰に言うでもないけれど心の中で言っておく。

 後は朝起きて帰るだけだ。


 え? このまま終わったら『ハズレの四十六番』の意味がわからないって?普通に充実してたみたいだけどって?寝る前に言ってくれないと気になって寝れない?


 それはあなたも利用すればわかりますよ。朝になればその日一日、いや最悪の場合数日間、利き手、利き腕がきっと凄く疲れますから。それが原因で先端が赤くなったりもするんじゃないでしょうか。


 ピーピーピーピーピーーー。

 携帯電話のアラーム音で目を覚ます。

 あっ、やっぱり。痒い。痒い。痒い。自分の肌がマットに触れていた場所だけ何ヵ所も赤くなっていた。調べた結果、ダニの可能性が高いことが分かった。

 早速、手が伸びる。
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