短編集(2015)

□日日日日日日日
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「月月火水木金金。何か分かるか?」

 台所のテーブルで家族三人揃って晩御飯を食べていた。その時、右隣に座っていたお父さんは私に聞いてきた。私のハンバーグを食べる手が止まる。

「なにそれ?」 

 中学生に成り立ての自分にはわからなかった。友達間で飛び交わない単語だった。

「土日も休まず働く事だ! まっ、今の時代そんなとこ少ないがな!」

 お父さんは大きな口を開けて大きな声で笑った。うるさいなと思いながらも私はもう中学生。大人だ。鼻を高くした。口にしない。

「お父さんは土日休みだからね」

「お父さんじゃない。パパと呼びなさい!」

 私の方を向いて言ってきたのだけれど、これもまたうるさい。食事中ぐらい静かにしたい。故に食事が進まない。

「いや、それはもういいって」

 ママはママ。パパはお父さん。中学生になってからパパと呼んでいる同級生が少ないことに気づいて言い方を改めた。

「ママだけずるいじゃないか……」

 私の目の前にママが座っているのだけれど一人だけ黙って黙々と食べている。表情を変えることなく黙々と食べている。

「ママってさぁ……いつも大変だよね」

「ん?」

 お父さんは何がなんだかわからない表情をしている。

「ママにこそ、その月月火水木金金が似合うね」どんなにママを誉めてもママの表情が変わることなく食べている。

「なんでだ。働きに出てないじゃないか?」

 お父さんはバカだ。

「バカ……はい! 朝起きたら台所にはママがいませんか?」

「いるに決まってるじゃないか」

 お父さんはアホだ。

「朝ごはんは?」

「そんなのテーブルにある」

 お父さんはカスだ。

「食べてから、仕事着に着替えるよね。洗われてるよね?」

「洗ってる」

 お父さんはクズだ。

「お弁当は?」

「ママの手作り……」

 恥ずかしそうに照れているけれど実に腹立たしい。

「照れない! で、帰ってきたら晩御飯は?」

「出来て……あっはいすみません」

 お父さんは冷や汗を一つ。

「寝るとき布団は綺麗なんじゃない?」

「はい……すみません」

 お父さんは冷や汗を二つ。

「お父さんは部屋の掃除ほんとーにたまにしかやらないよね。いつも綺麗なのは?」

「……申し訳ありません」

 お父さんは冷や汗を三つ。

「ママはねぇ。年中無休なんだよ。ママこそ月月火水木金金だよ」

「あっはいそうですね……」

 お父さんは冷や汗を四つ。

「誰が今時ないって? むしろ金曜日は一週間で一番疲れる日なんだから、年中無休のママはずっと金曜日みたいなもんだよ。金金金金金金金だよ!」

「金金金金金金金……」

 お父さんは青ざめ、身体を震わせる。



「胡桃だって手伝ってないじゃないか」

 数秒後、お父さんは起死回生の一撃を私にぶつけてきた。

「ぐっ―――胡桃はいいの。勉強と遊びが仕事なんだから。普通に日月火水木金土だね」

「いや違う。パパに散々言っときながら手伝わないとかおかしいだろう」

「だから勉強と遊びが……」

「そういうならパパだって仕事が」

 私はママをチラッと見た。

「お、おっ、えっと……パーパ。家ではパパって呼んであげるから、二人とも日月火水木金土で話をつけない?」

 お父さんもママをチラッと見た。

「あはははは、そっそうだな!」

 私とお父さんが言い合いにけりをつけたのには理由があった。ママはお怒りだった。拳を握りしめ、顔は激怒している。全てを聞いていた。ママはテーブルをおもいっきり殴った。私とお父さんの食べかけのハンバーグが少しだけ宙に浮く。

「あんたら二人とも日日日日日日日よ!」
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