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□He is.
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He is.
「キーくん、まだぁ?」
クローゼットの前で、キーくんのキーくんによるキーくんのためのひとりファッションショーが始まってから早一時間。クローゼットの周りには引っ張り出されては放られた服が山積みになっており、ショーの激しさと長さを物語っている。
怒涛のカムバックが少し収まり、与えられた僅かな休日。久々に出掛けよう、と君を誘ったのはこれより三十分前。合計一時間半、鏡とクローゼットを見比べてはくるくると身を翻すキーくんをベッドに腰かけて眺めている。
最初の三十分は、悩んでる姿も可愛いな、その服お気に入りだよね、そっちのジャケットならインナーはこっちがいいね、なんて楽しんでいたものの、一時間を越えたあたりから、気の長い方ではあるがさすがに堪えてきた。
こうしてる間にも俺たちが買い物(デートともいう)に出掛けられる時間は刻々と減っている。ねえ、俺はやくキーくんを隣に置いて街を出歩きたいんだけど。お互いバレないように、でもちょっと見せつけたりなんかしながら、またお揃いの服とかアクセサリーとか買いたいんだけどな。
「これからメイクもするんでしょ?俺、干からびちゃいそう」不満気な声でぱたぱたと足を揺らして急かしてみる。
「うるさいな、僕はヒョンとかミノみたいに顔がよくないんだから、服もメイクもちゃんとしなきゃいけないの!」
キーくんは目尻をきゅっと上げて俺を睨みつけた。まだ整えられていない眉がぎゅっと寄せられる。
ちがう、そんな言葉を言わせたかったわけじゃない。
「何言ってるの、キーくんはかっこいいよ」
「よく言うよ、オニュ兄と僕は"カット"したくせに」
キーくんは思い切り顔を顰めて舌を出した。鼻に皺を寄せて目をぎゅっと瞑った顔は、お世辞にも「いい」とは言えない。
「あれは演出じゃん!」
カムバックと共に数ヶ月前に収録した“地下三階”での企画。メンバーとルックスを比べることになり、俺はテミナの「愛嬌」を押し退け、ミノの前に収まった―――既にテミナとミノに弾かれ、苦笑しながら身を寄せあっていたオニュ兄とキーくんを、酷く雑に"カット"して。
「演出。はあん、さすがジョンヒョン“名”プロデューサー。見事な手腕ですこと」
キーくんは服を腕に抱いたまま、冷ややかに俺を見下ろして鼻で笑う。たらりと背中を汗が伝う感覚に、地雷を踏み抜いた爆発音が頭で響く。まずい。非常にまずい。
この不穏な空気を振り払おうと口を開きかけた瞬間―――目の前のキーくんが口を噤んだまま俯いていることに気づく。
「・・・キーくん?」
そろりと顔を覗き込み、服を抱く腕に手を伸ばす。さするように這わした手は振り払われず、ただ押し黙ってしまう。
「・・・僕は、ヒョンの隣に並んで、指をさされたくないんだ。なんであんなのと、って、ヒョンを見られたくないの」
一瞬の沈黙の中、ぽそりと落とされた言葉に、後ろから頭を殴られたような感覚が身体を走った。
―――わかってない。なにも。キーくんはなにもわかっていない。