小説

□9 jhxjn
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久々にちゃんとした料理を作っていると、フラフラとダイニングテーブルに近づいて来る彼。手伝ってくれるのかと思いきやそのまま椅子腰掛ける。

「そんな所に座ってるなら、食器用意して。」
「あ、はーい。」

彼は僕にそう言われてから行動し始める。手伝ってくれる分、部屋から出て来ない他のメンバーよりはいいか。

「今日、ごはん何ですか?」
「食えば分かる。」
「...そうですねw」

与えた仕事も半ばに隣に来て、料理をフライパンの中から取って勝手に味見をする。

「美味いか。」
「うん、将来は有望なお嫁さんですね。」
「そうだろ。」
「ふふふふ!」
「そんなに笑う程じゃないよ。」

彼の冗談に少し乗っただけなのに、そんなに嬉しいか。その後も楽しそうに僕の周りをうろうろしながら、食事の準備をしてくれた。

「もう出来るから、皆呼んできて。」
「え〜、皆をですか。」
「ヒョンの言う事が聞けないの?」
「呼んできますけど...。」
「よろしく。」

彼は嫌々そうにメンバーを呼びに行った。どこにそんな機嫌を損ねる箇所があったのか理解し難い。

* * *

さっさと食事を済ます僕を含めた他のメンバーに対し、彼は一人だけ居残りのようにゆっくり食事をしていた。
僕も最後から2番目の時点でそんなに人の事は言えないけれど。僕が食器をキッチンの方へ持って行くと彼に呼び止められる。

「ヒョン!僕が洗います。だから、そこで休んでてください。」
「本当?ありがとう。」
「あ!部屋帰らないでそこにいてください。」
「なんで...。」
「いいから!」

皿洗いをしてくれるのは助かる、だけどこの場からは解放されない感じだ。小学生の子どもがいる母親はこんな気持ちなのだろうか。まるで褒められ待ちかのような彼の様子。
対して、ここにいろと言ったわりに何でもない話ばかりなのが少しずつ面倒になってくる僕。そんな話なら、相手は僕じゃなくたっていいだろう。僕は彼の母親になった覚えは無いし。

「なんか言いたいことあるなら早く言って。」
「えっ?あ、あの、ヒョンが作ってくれたごはん美味しかったです。」
「うん。」

それは、さっきも聞いた。

「すごく美味しかった。」
「それが何!」

僕は痺れを切らして、そう彼に強く言った。何が言いたいのか、何が目的なのか、はっきりしない態度がだんだんと面倒くさくなってきた。全くと言っていい程ずっと意図も読めない。

「だから、その...結婚して下さい。」
「は?」

訳が分からない。一瞬、思考が止まったくらい意味が分からない。そんな冗談が言いたい為だけにここにいろって言ったのか。
僕が呆れていると、彼は僕を真っ直ぐな目で見つめた。

「僕、本気ですから。」
「ま、まじ...?」

おかしい。本当に真剣な顔つきだ。理解するのに時間はかかるが、僕が耳まで紅潮するのはすぐだった。

「ヒョンの事がずっと好きだったんです。だから、僕は人生で初めてプロポーズしました。」
「...考えとく。」
「お願いします。」

そんな真面目に言われたら、すぐ断る事が出来ない。そんなのは非情すぎる奴のする事だ。全くその気が僕になかったとしても、ありえなくても出来なかった。それくらい彼の表情は真剣だった。

やっと解放された僕は部屋に戻って、今一度考える。
何か人生を間違えたか...?彼の事は嫌いじゃない、むしろ好きだ。でも、そうじゃない。ライクとラブの違いだ。ていうかまず、同性同士で結婚が出来るはずないじゃないか。

「あ〜...難しい事考えさせんなよ〜...。」

僕は一体、どんな答えを出したらいいんだ。
無理な現実を突き付けるだけが正解じゃないと思う。断るには断らなくてはいけないけど、どうやって言うのが最善か。いやそれより、あの彼が簡単に諦めるのか?いや、諦めなかった時はそうなった時か。とりあえずは丁重に断らないと。

仮に結婚を前提に付き合うとしたら、今の生活がどう変わるんだ。何も変わらないような気がする。仕事はいつも通りメンバー皆一緒に行動する訳だし、こうやって帰ってきても一緒にいる、ほとんどの時間を一緒に過ごす事に変わりない。それに僕は、わざわざ相手に時間を割くほどの関係になるのは御免だ。

まさか、メンバーに公表する?そんな事をしたらそれは大会議だ。まず、何を目的に結婚を申し込まれた?本当に僕が料理が出来て家庭的だから?いやいや、そんな人はいくらでもいる。それが理由なら単純過ぎて、もうそれは一種の病だ。

彼は何を基準に僕が好きなんだ?そもそも、その好きってなんだ?結婚ってなんだ?

あれ。なんで僕はこんなに恋愛と結婚について考えてるんだ。
さっき、たった一言だけ言われただけで、意識してしまっている自分にひとりで恥ずかしくなる。答えははっきりしているんだから、もう考えるのはやめよう。

僕は頭の中で他の事を考えるようにして、一旦落ち着くことにした。
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