小説

□8 jhxrm
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君が忙しなくしていた日々がいつしか落ち着いて、気付けば俺の隣にいた君は自分で大きな夢を一つ叶えた。そんな君はわざわざ俺の元へ来た。

「ナムジュン、夢が叶ったよ。」
「俺も嬉しいよ。」

口から出た言葉はその通りで嘘じゃない。だけど、俺は君と同じくらい喜べていない。
どうしてかなんてもう頭では分かっているから、そんな利己的な自分を反対に嫌いになりそうだ。君に自信を持って渡せるお似合いの言葉が見つからないよ。

「ありがとう。」
「どうして、俺にありがとう?」
「だって、ナムジュンが沢山支えてくれたでしょ?」

すぐに言葉が出てこなくて喉の奥から熱い何かが込み上げてくるようだった。たった一度、たった一人の生まれてきた幸せを味わっている。

「そうか?お前が一人でそこまでやり遂げたんだろう。すごく忙しそうだったし。」
「確かに忙しかったけど、僕一人の頑張りじゃ出来てなかったよ。」

平常心のまま向き合って話すことが出来なくなって、俺は振り返り何でもないPCの画面に目をやった。
気が効くような言葉はいらない、素晴らしい特別もいらない、そんな風に思うのは素直じゃないな。
俺がこれから愛を歌うのは割れんばかりの拍手を貰う為じゃなければ、響き渡る歓声が欲しい訳じゃないんだ。君だけ分かって、俺がこんな人間だって事、分かってよ。
歳を重ねるごとに、俺の想いは角を侵食して大きく丸くなって増えていくばっかりだ。とっくに君への気持ちに気付いたのに、それをずっと下のほうに仕舞ったまま。
俺は深く息を吸ってから、また君のほうに向き直った。

「そうか、じゃあ支えられて良かった。」
「うん、ありがとう。」

そんな表情を俺だけに見せないで、好きだよ。分かって、分かってよ。
一方的な愛が溢れていく。この際だから、もう少しだけ自分勝手な事を思わせて。
君がいつかこうやって俺の元へ来なくなって、俺を忘れてしまったら少しつらいけど、それでもいい。だけど、俺より先にどこか遠くへ旅立つことは許さない。そして、一人で遠くに行かないで。ずっと側に俺を置いていてよ。そうやって頼っていて欲しいんだ。
大丈夫、生まれ変わっても出会いかたが最悪でも、また俺は君に恋をするから。

「じゃあ、また家でね。」
「うん、じゃあな、気を付けて。」

眩しい笑顔を見せて柔らかな風と共に君は俺の前から去って行った。
俺の心は君にいつも片想い、愛してる。

-End-
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