小説

□9 jhxjn
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翌日からいつもと変わらない日常が始まる。いつも目紛しく日常が過ぎるせいで、昨晩の事を言う暇もなく時間が経っていく。

気付けば、頭の片隅で気にしていながらもうすぐ一週間。メンバーのいる時を避けて二人で話す事がこんなに難しいとは思わなかった。後になればなる程、言い出しづらくなるのは分かっているけれど既にもう、言い出しづらい、は始まっていた。

そんなある日、宿舎で彼の方からなんだか嬉しそうに僕に話しかけてきた。

「ヒョン、冷蔵庫開けてみて。」
「え?なんで。」
「早く。」

言われた通りに冷蔵庫を開けると、見覚えのない箱が入っていた。それを取り出してから彼を見ると、ニコニコと笑いながら僕を見て開けろというジェスチャーをしてくる。
指示通り箱を開けると、ひとつだけ到底満足しなさそうなサイズのケーキが入っていた。

「...これ食べていいの?」
「最初に見つけた人が食べられるルールです。ヒョン、どうぞ。」
「仕掛けた本人の誘導ってチートじゃない?」
「いいえっ?」

僕に笑顔でそう答えてから、彼はリビングの方へさっさと歩いて行った。くつろぐメンバーの元へいって彼もその輪に入った。

「あー、ケーキ、ジンヒョンが最初に見つけたよ〜。」
「あ!忘れてた...帰ったらすぐ冷蔵庫見ようと思ってのに。」

すぐ反応したのはジミンだった。その台詞からして、これがここにある事を知ってたのか。

「次は頑張って。」
「全員分買って来れば済む話だけどな。」

その後に続いて、ナムジュンは最もな意見を言う。

「それで各自それぞれの場所に配達してくれれば尚いいな。」
「はっ?デリバリーじゃん。」

ユンギは真面目な顔で配達までもを要求する。後の反応に対してもその通りと言わんばかりの顔で。

「楽しみにしてます。」
「あれ...本当にやる流れ?」
「当たり前です。」

話を聞いていたジョングクとテヒョンもその企画に乗り気を見せてさらに会話が盛り上がる。
たまたま誰も手を付けなかったから、僕に声を掛けたのか。これが僕が好きな味だっていうのも、たまたまか。どういう意図があって用意したんだろう。

「せっかくだから、食べよ。」
「じゃあ僕、ヒョンの美味しい待ちします。」
「何それ。」

また僕の方に歩いて来て、ダイニングテーブルのちょうど向かい側に彼が座る。これは、イートジン特等席か。
フォークを使ってちまちま食べるのはあんまり好みじゃない、だから僕はそのままケーキにかぶりついた。

「えっ、ほぼ半分を一口ですか!?え!二口で終わっちゃうw」
「なんだよ、じゃあもっと大きいケーキを用意してから言え?」
「そういう意味じゃないですw」

じゃあ何だ、今さら僕の食べ方に文句があるのか。それとも、今日は自分が用意したものだからか。

「一気にたくさん食べた方が美味しいに決まってる。」
「そのせいで口の横にクリーム付いてます。」

彼はテーブルに身を乗り出して、わざわざ僕の口元を手で拭う。指先で取られたクリームをも逃したくなくて、彼が手を引く前にそれを食べてやった。

「あげない。」
「いや〜、さすがジンヒョン...。」

彼は物欲しげな顔で、自分の指先を舐めた。貰ったものは返したくないけど、仕方ないか。

「そんなに食べたいの?」
「いえ、いいです。ただ、」
「ただ何?」
「こっちは欲しいです。」

彼はテーブルの上にあったケーキの箱で僕以外の視線を遮って、ちょうど見えないようにしてから僕にキスをした。あまりに衝撃的で、僕は一瞬固まってしまった。

「え...?」
「僕は簡単に諦めてあげませんよ。」
「...そんな事言われても。」
「耳まで赤いですよ。」
「う、うるさい。」

彼は嬉しそうに笑いながら、僕の側を離れていった。僕は全然楽しくない。
やっぱり思った通り、簡単に諦めてはくれなさそうだ。一層の事きつく言ってみよう。そうすれば、諦めがつくかもしれない。僕と彼両方の為にそれが一番いい選択のはずだ。

だけど、何だこの気持ち。それがいいって思うと寂しいような...?好きと言われただけで、回りくどくケーキをプレゼントされただけで、ここ数日ずっと彼の事を考えてただけで、二人になるタイミングを見計らってただけで、たった一回キスされただけで...?

あれ...何だこれ。まるで恋愛の始まりみたいだ。だめだ、意識しちゃいけない、思い出しちゃいけない。僕が惚れたら負けだ。そんな事あるはずがないってそうやって思ってたのに。
何だこれ...。別に好きじゃないし、恋愛とか有り得ないし、それ以前にメンバーだし、何考えてるんだ。
僕は目の前にある残りのケーキを食べて、誰かのせいで落ち着かなくなったこの部屋を出た。
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