【銀魂】河上万斉 夢

□7話
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寒かった冬も終わり、もう桜が咲き始めている。季節は春だ。
鬼兵隊に来てから早2ヶ月が過ぎようとしている。

あれからなんやこれやがあって、鬼兵隊は忙しかった。勿論私も、既に初陣を迎えたあとだ。

忙しかったせいもあり、万斉さんと中々話す機会がなかった。耳元で囁かれ、顔を真っ赤にしてしまったのがつい昨日のことのようだが、もう2ヶ月も前になってしまった。

窓を開けて、川沿いに佇む大きな桜の木を見る。
あぁ...ポツポツと咲き始めているようだが、まだ汚い。

けれど、気候は暖かくなってきて名無しさんの眠気を誘った。ウトウトと、机に肘をつきながら意識を手放そうとしていた時、美しい三味線の音色が聴こえた。
相手も窓を開けているようだ。音が籠ること無く聴こえてくる。

その相手は勿論万斉だ。恐らく作曲でもしているのだろう。高杉も三味線を弾くが、昼間に弾く趣味はないようで、夜しか聴いたことがない。

それもこんな曲といえるほどの音楽ではなく、本当に気ままに鳴らす音。
よって、この音色は万斉のもので間違いはないだろう。

名無しさんは思わず聴き入った。
そして気づいた。これは、恋の歌だ。優しく、でも切なく、胸が締め付けられる音色。片想いを綴った曲だ。

万斉もこんな曲を作るのかと、何やら感心した。
恋なんて興味ないと思っていたが、そうでは無いのかもしれない。いや、仕事の依頼ならどんな曲でも作るだろう。

しかし、もし......仕事でないとしたら、これは誰に向けての想いなのだろうか。

音色が止まった。その先を考えているのか、何も音が聴こえてこない。

「名無しさん、失礼するでござる」

「は、はい!!!!」

ま、まさか自分の部屋を訪ねてくるとは、思ってもみなかった。つい先程美しい音色を弾いていたはずなのに......なんだか盗み聴きした気分になり、万斉の顔をまともに見られない。

それを怪しんだ万斉は、名無しさんの前まで来てしゃがみ、頬に手を添えて顔を上げさせた。

「......何故此方を見てくれぬのでござるか?」

「え、あ、あの......」

名無しさんが言葉に詰まっていると、万斉はクスリと口角を上げて笑った。

「さっきの曲を盗み聴きしたのでは無いか、と思っているのでござろう?心配するな。わざと窓を開けて、聴こえるようにしていたのでござる」

へ?わざと?誰に聞かせるため?そして、何故そんな事を?

「な、何故わざと窓を開けたのですか?」

「届いて欲しいからでござる。主は、拙者の曲をどんな曲だと感じたでござるか?」

どんな曲......さっき思った通りだ。切なく、けれど優しい音色には、もどかしい。けれど、想いを伝えることが出来ない切なさと、相手を思う愛情が乗せられていた。

「片想いの曲です。それも、手を愛してるんだと、切なく静かに叫んでいる曲」

「ほぅ......名無しさんは、とっても感性が鋭いのでござるな。まさにその通りでござる」

優しく微笑みながら、頬を撫でてくれる手が擽ったいが、心地よい。思わず擦り寄ってしまう。

「名無しさん......あんまり可愛いことしてくれるな」

「え?」

万斉さんが、私の頬から手を離し、胡座をかいてそっぽを向いた。

「あの......誰に届いて欲しい曲なんですか?」

「......名無しさん、花見は好きか?」

無視された。人が話している時はヘッドホンを取りなさい!!と思わず怒りたくなる...が、多分聞こえているのだろう。そのうえで誤魔化したのだ。これ以上聞いても、何も答えてくれないだろう。

この2ヶ月で、少しずつ万斉さんのことを理解出来るようになってきた。

「好きです!!」

力強く答えた。嘘じゃない。お花見は大好きだ。

「ならば、桜が満開になったら拙者と花見に出かけないでござるか?」

誘ってくれている!?万斉さんが、お花見に私を誘ってくれている??
万斉さんと桜......想像するだけでうっとりしてしまうほど絵になる。

「是非ご一緒に行きたいです!」

良かったと、万斉さんは優しく口角を上げた。

「明後日くらいには満開になるでござろう。だから、名無しさん。明後日は空けておいて欲しいでござる。拙者、明後日まで少しここを空けるゆえ、急な予定変更は緊急事態以外聞かぬでござるよ」

意地悪っぽく口角を上げた万斉さんは、座る時に下ろした三味線を掴み、立ち上がってそう言った。

「予定変更なんて有り得ません!!ずっと楽しみにしています!!」

万斉さんは満足そうに踵を返すと、

「拙者もでござる」

と呟いて部屋から去っていった。
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