魔法使いの弟子
□魔法使いレトルトの話
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設定がいまいちわからない人は解説をご覧下さい!
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風すら避けているように静かな森の奥深く
ひときわ大きな大木の後ろに隠れるように、立派な屋敷が建っていた。
そこはまだ 人間 が足を踏み入れたことのない漆黒に包まれた屋敷
その屋敷の周りを烏がギャアギャアと飛び交う
満点の星が輝く、そんな夜のこと
***
月明かりがそっと差し込む、真夜中の三時にふと目をさました
瞳が窓の奥のまだ空高い月をとらえ、また眠りに落ちようと瞼を降ろす
が、眠れなかった。
瞼を降ろすとどうしても感じてしまうむず痒い感覚に眠気を吸いとられてしまう。
目を瞑るのが辛い だなんて、おかしな話だ
これ以上苦闘してもきっと余計眠れなくなるだけだろう。
レトルトはうっすらと目を開け、ベットをきしませながら上半身を起こした
四角い格子のような造りの窓からはやはり、煌々と輝く月が見えた
...眠れなく、なってしまった。
暫く回らない頭でどうするか迷い、キョロキョロと周りを見回す。
そして、カンテラに目が止まった
レト「...散歩にでもいこうかな」
思い立ってからの行動は早く、上着をはおい、革靴に履き替え、カンテラを持ち、
二階の窓から飛び降りた
ズザッ、
レト「おっと...危ない危ない、捻るとこだった。怪我したらつわはすくんに
めっちゃ怒られるんだよなぁ」
P-Pは怒られている俺をみて爆笑するんだろうなw なんて一人で苦笑いしてみる
そしてカンテラに火をつけ、いましがた抜け出した屋敷を見上げた
レト「...歩こう」
そう呟くと、レトルトは屋敷から踵を返し、反対の森に向かって歩き始めた
?「...レトさん、まーたやってるよ...危ないからやめてって言ってるのになぁ...」
*
レト「あ、こんなところにあったんや。このハーブ」
レトルトは足元をランプで照らし、しゃがみこんだ
レト「ずっと探してたのに...ないと思っとった」
そしてハーブを摘み取った。
前から探していた種類の、普通の森には生えないハーブ。薬を作るのに使うのだ。
ポケットから小瓶を取り出し、中に入れる
レト「とりあえず、これがあれば頼まれてた薬はつくれるかな」
レトルトは街人に薬を販売している。
もちろん、魔族だと知れば、魔術を使って調合しているから と危険な目で見られるのは目にみえているので、姿を隠して販売しているのだ。
...魔術なんて、使ってないのにね。
レトルトは切り株に腰掛け、小瓶を月明かりに照らした。キラキラと輝くそれを見つめながら思いを馳せる
レト「...違う。使ってないんじゃない」
普通、魔族が生計をたてるために販売する薬には、魔術が使ってある。
が、けしてそれは体に害を及ぼすものではないことは確かなのだが...
俺の作る薬は、全て手作業で作っている
レト「俺が...使えないだけ。」
レトルトはあの屋敷に三人で暮らしている。
当主であると同時に、凄腕の魔法使いで、俺の師。つわはすと、
つわはすの助手として働きながら、錬金術を研究している優秀な兄弟子。P-Pと、
元捨て子で、魔族なのに魔術が使えない出来損ないの、俺。 レトルト
の三人。
...魔族といってもここだけではなくて、数は少ないといえど他にもまだ二十は一族があるだろう。
そう、俺はここの一族の生まれでも、知り合いでもなかったのだ。
P-Pはもともとつわはすくんと家がらみで知り合いのようで、今も世話をしてもらっているらしい
でも俺は捨て子。自分でも覚えていないくらい前に捨てられたのだ。
魔族は他とあまり関わりを持たない代わり、自分の一族を溺愛する。
...のに、俺は捨てられた。
それは俺がそれくらい出来損ないだからだ。
森の中で寒さに震えていた俺を拾ってくれたつわはすくんに俺は魔族なのだ と教えてもらった
自分のことが誰かも分からない俺は魔族といえば魔術だ、と勝手に期待していたため、
きっと大人になったら魔術が使えるようになるのだ と。
そんな、夢を見ていた。
が、いつまでたっても使えないため、こうして薬草を手間暇かけてすりつぶし、薬を作っているのだ
...きっと俺を捨てた魔族の両親は、俺が魔術も使えない出来損ないだとさとっていたから俺を捨てたんだろうな...
薬しか作れない弟子じゃなくて、魔術を使って、つわはすくんの役にたつ弟子になりたいのに...
考えだすと止まらなくなる。そして、涙も自然と流れてきた。
レト「はは...魔族はめったに泣かないのにね...」
そうして再び瞼を降ろしかけたとき、
ガサッ! ザッ、ドサッ!!
けたたましい音が後ろから鳴り響いた