魔法使いの弟子

□魔法使いレトルトの話
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レト「!?なっ、なん??」

突然の物音。今は深夜3時、だよな...
烏にしては大きすぎる音。それに烏がどうとか というよりも、何か大きなものが落ちた音だった。

レト「...まさか...敵襲?」

仮にも俺たちは魔族。たとえ現世の魔族が悪事をしていなくとも、歴代の魔族の様々な悪事のせいで、勝手に俺たちを目の敵にしてくる奴等はたくさんいるのだ。
いつもはつわはすくんとP-Pが退治してくれるんやけど...

俺がやるしか...ないしな。

そしてチョッキの内側から銀色の杖を取り出した


レト「魔術なんて使えないけど...やるしかない。」

そう、覚悟を決めてレトルトは音のした方向にじりじりと近づいていった



*

レト「たしか、ここらへんなんやけど」

真っ暗でカンテラなしでは右も左も分からないくらいの深い深い森を掻き分ける
相当大きな音だった。数本の枯れた木が一気におれる音。
聞き逃すはずがな...


レト「...ぁ、れ って...」



レトルトがカンテラの灯りでようやく見つけたのは
 人...の形をしたなにか。が冷たい地面に倒れていた。
おそらく背丈はスラッとしているのだろう
全身を黒いスーツに包んでいるが、髪の一部は燃えるような深紅の色。
そしてなにより目を引いたのはその髪の隙間から黒光りをしながら覗いている長く、美しい角。
普通の人はなにもないはずの肩甲骨辺りから生える大きな翼。
尾てい骨から伸びたしなやかな尻尾。
土に染み込む大量の赤色から、どうやら怪我をしているようだ。動けないのかもしれない

...コイツまさか...



レトルトは銀の杖をかざしながらもじりじりとそいつに近づく
そして、 それ まであと一歩というところまで歩みより、足を止めた


レト「お、おい、お前大丈う...」

そう言って肩に触れようとした瞬間


?「...レトさん。そいつ、悪魔だよ」



聞き覚えのある声だ。いつもは優しい声色が、心なしか怒っているように感じる。
きっとあの人だ と確信しながらも少し体を強張らせながら振り返る



レト「つわはすくん...なんでここに?」


つわはすくん と呼ばれた男は、黒いマントに翠色の装飾の入ったブローチをつけ、
うっすらと翠がかった長い髪を束ねている。
長めの前髪からのぞくのは翡翠色の瞳と端正な顔立ち

街ですれ違おうものなら誰もが振り替えってしまうような男だ。

が、彼はつわはすと名乗るものであり、正真正銘の魔族。

レトルトの住む屋敷の主で、レトルトの師でもある


そんなつわはすは...あからさまに不機嫌そうな顔をし、その端正な顔立ちを歪ませている



レト「えっと...つわはすくん?」

つわ「......どうせ寝られなかったから散歩がてらに薬草探しに来たんだろうから、
   もうこの際それはいい。でも、

   レトさんさっきそいつ、触ろうとしたでしょ」

レト「!?」ギクゥッ‼


レトルトは図星をつかれ、口元をひきつらせた

それを見たつわはすは、黙りこんだが、やれやれとでも言うように浅いため息をついた
そしていつもの顔にもどる。

...ああ。良かった。どうやら機嫌を損ねた訳ではなさそうだ



つわ「...あのねぇ!いっっつも言ってるだろ??森は危ないから一人で出歩くなっ
   て!迷子になっちゃうよ!?いくらレトさんが生き物に好かれるからって、
   連れて帰ってくれたりはしないんだから!!

   最悪戻れなくなるんだよ!?それに、森は危ないやつが沢山いるのっ!

   例えばほらっ!こんな悪魔ぁ!!」


またもつわはすに図星をつかれ、肩をわざとらしく竦めてみる。

...いや、ちゃんとね?反省はしてるよ?


つわ「ほら!ちゃんと反省してるの!?」

レト「してるよぉ!...でも、危ないときは二人が守ってくれるでしょ...?」


反論に備えていたつわはすにとってはあまりに突飛で、可愛らしい言葉だった。

可愛さで許す なんてことはないけど。...いや、けしてそれはないけど!


控えめに覗いてくるレトルトにほだされたようだ。
つい、つわはすも頬を緩めてしまう。


俺はこんなに信用されていたのか。
やはり、嬉しいものは嬉しいな...
つわはすはポンポンとレトルトの頭を撫でる。




つわ「...じゃ、帰るよ。」

レト「えっ!?ちょ、待ってよ!」

つわはすのマントを軽く引っ張り、引き留める
するとつわはすは嫌なことを察したかのように、眉を潜めた




つわ「まさか...連れて帰ろうってんじゃないだろーね...」

レト「...だめ?」

つわ「だめに決まってるでしょぉ!?いや、レトさん。言ったよね?そいつどっから
   どうみても悪魔だからっ、」

レト「で、でも...このままにしておくのも...」

つわ「だめだといったらだぁぁぁぁめ!」



二人で少々見つめあう...というよりは、どちらかが折れるのをまっている。というところだ



悪魔なんて拾ったら、ろくなことがおきない。
レトさんの身が危なくなるし、すぐ殺そうとするし、気に入られても契約を無理矢理結ばせてくる、魔族と同族者である、厄介者。

つわはすは絶対反対だった



つわ「......」

レト「.........」

つわ「.....................っ、もーーー!」

レト「やった!」

つわ「なんかそいつがちょっとでも危害加えたらすぐ追い出すからね!?」

こういう局面になったとき、結局は毎回つわはすが折れてしまうのだ。


つわ「っ...!P-Pぃ!」


P「はぁーーーーい。」


どこからからか一羽の烏が飛んできた。他の烏よりも少し大きく、毛並みが綺麗だ。

それは二人の目の前に降り立つと、たちまち葵色の煙がわきだした。



そしてその煙はどんどんひとがたになっていく。

現れたのはこれまた重そうなマントを背負っている男。短めの青みがかった髪の下に藍色の瞳。端正な顔立ち。
...くっそ、お前らずるいかよっ!


レト「ちょっ、P-P!?一歩からそこにいたの!?」

P「いや、結構初めから...かな?」

レト「もーーー!言うてやぁ!!恥ずかしいだろ!」

P「やー。ごめんごめん。」


つわはすくんの一番弟子であり、兄弟子であり、優秀すぎるP-P。もう一人の同居人。

P-Pは烏に姿を変えることができる。


つわ「じゃ、あと頼むわ」

P-Pは、俺の手をひいて屋敷に戻ろうとするつわはすくんに必死に訴えかける

P「えぇーーーーーっ!!なんで僕う!?」

P-Pはあからさまに嫌そうな顔をした。
それもそうだ。姿を表して、そしていきなり大の男一人を背負っていくのだ。

うわぁぁ...コイツ身長高いから運びにくいやろなぁ...



つわ「じゃ、ぴーちゃん よっろしくー!」

P「っ〜〜!もー!運べばいいんでしょっ!運べばぁ!」


そう言って再び烏に戻ったP-Pは、鳴き声で他の烏を呼び集め、悪魔を持ち上げ出した


なんだかんだいってやさしいなぁ...二人とも。
なんて思いながらレトルトは宙に浮く悪魔をみた。

そして、目がかち合った



レトルトは動きが静止した。
だって、あの...紅い深紅の瞳。
あれが...悪魔...。


緊張で声も出せなかったレトルトに、悪魔はどうするわけでもなく、素直にP-Pと烏達に屋敷へ連れ去られていった


呆気にとられていたレトルトは、つわはすがこちらを見ているのに気づいた


レト「...つわはすくん?」

つわ「あのさ...レトさん。今度は、ほんとに止めてね?
   今みたいに悪魔とかがいつ現れてもおかしくないんだから...
   それに、もし俺が後をつけてなかったら、レトさん今頃死んでたかもしれない
   んだよ?」


その言葉にチクリと胸を痛ませる。
...大丈夫。これは、ただ俺を心配してくれているだけだ。
決して俺が魔術が使いこなせないから、自分の身も守れない と言われているわけじゃ
ない。

それは...わかってるんだけどさ。やっぱり...どうしても...




なんで俺は魔族なのに、魔術が使えないんだろう


つわ「...俺たち、レトさんが心配だから...必要だから、こうやって後をつけてきた
   だ。だからさ、約束して?
   次からは信用できる人と一緒に外出するって。」

レト「...うん。ごめん。そうするよ...ありがとうつわはすくん」



冷酷な魔族なのに、こうして胸が痛いのはなぜだろう。


レトルトはなぜかあの悪魔の深紅がどうしてと脳裏に焼き付いて離れなかった

...あの炎に焼かれたい。    ...なんてね
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