短編

□愛しい視線
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自分の落ち着いた部屋で好きなアニメ映画を見る、このゆったりとした雰囲気がたまらなく好きだった。

誰にも邪魔されない至福の時間。
そう思っていたんだけど。



ちらりと、正面に座っている彼に目を向ける。
リビングの真ん中に置かれている机に突っ伏した状態で、此方を見ている彼と目が合ってしまった。


「....しんのすけさぁ、いつまで僕の事見てるつもりなの?」

「ん〜?風間くんが構ってくれるまでいつまででも見てるつもりだけど」

「そんなに僕の事見なくても....」

「風間くんがテレビに集中してくれなくなったらやめてあげてもいいんだけどなぁ〜」


しんのすけは瞬きもせずになおも僕の事を見続けている。


「あのなぁ、僕今日は観たいアニメ映画があるから遊べないって言っただろ?それなのにしんのすけがいきなり来るって言うから」

「だってぇ。毎日会えないとオラ、風間くん欠乏症で死ぬんだもん」

「絶対死ぬことはないから大丈夫だよ」


うるうると態とらしく瞳を潤わせ、構ってオーラを醸し出している彼を適当にあしらい、再びテレビへと視線を戻す。

こんな状態のまま、かれこれ一時間は経った。
あともう一時間程度で映画は終わるのだろうが、その間もしんのすけの向けてくる視線に耐え切らなければならない。

幸い、しんのすけは見てくるだけで何も手出しはしてこない。
机を挟んで良い距離感を保てている。



(僕の邪魔したら一ヵ月会うの禁止令が効いたんだな....)



時折、しんのすけの方へと視線を移動させる。


うん、やっぱり僕の事見てるよな。
そんな事するくらいなら映画を観た方がよっぽど面白いのに。

そう感じつつも、結局しんのすけの事が気になっている僕はやっぱり彼が好きなんだなと思う。

まぁ本人には絶対言ってあげないけど。




「ね〜風間くん。この映画のオケツマツさぁ、オラ分かった気がする」


それまで黙っていたしんのすけがおもむろに口を開いた。


「それを言うなら結末だろ。...え、分かったの?」


なんだ、ちゃっかりしんのすけも観てたんじゃん。


「まぁ大体は。よくあるパターンのやつですな」

「わ、分かってても絶対言うなよ!?」

「言わない言わない。観終わるまで邪魔しないって風間くんと約束したしぃ」

「う、うん.....」


何だかんだ、僕の言いつけはちゃんと守ってくれる。

変態だし女好きだし、たまにとんでもないセクハラをしてくるけど、本当はすごく、すごく優しくて良い奴なんだよな。



映画の内容そっちのけで、しんのすけの事を考えてしまっている自分に気付く。

何もせずにただただ僕を見てくる彼のその眼差しが、何故かとても愛しく感じた。



ふと寂しくなり、どうしようもなくしんのすけの隣に寄り添いたくなってしまう。


「なぁ、しんのすけ...,」

「んー?」

「....しんのすけの横、いってもいい?」


普段だったら絶対言わないような僕の発言に、しんのすけは少し驚いた顔をしていた。

そりゃそうだよな。
自分から邪魔するなとか言っておきながら傍に行きたい、だなんて...矛盾してる。



しんのすけは一瞬驚いた顔をしていたが、すぐにお得意のニヤけスマイルを向けてきた。


「風間くん、隣にきたらオラ触っちゃうぞ〜?」

「うん.....」


僕は赤ちゃんのするハイハイみたいな四つん這いで彼の横に移動する。

しんのすけの体温が恋しい。
何故だか急に。


「風間く〜〜〜〜んっ」


しんのすけの隣にきた瞬間、四つん這いだった僕の身体を軽々持ち上げると、胡座の上に座らせられる。
そしてそのまま腰に腕を回された。


「やっと風間くんに触ることができた。嬉しい」


髪の毛に顔をうずめてくるしんのすけに胸が高鳴ると、僕も負けじと彼のシャツに頬をすり寄せた。


しんのすけの匂いだ。落ち着く。あったかい....


「ねぇ風間くん。映画はもういいの?」


しんのすけの言葉に僕はコクンと頷く。


「じゃあさじゃあさ、もっと他の事してもいい?オラ、今すんごい興奮してる」


「う、うん.....」


ズボン越しからでも分かるほど、存在を主張しているしんのすけの高ぶりを感じる。


「し、しんのすけ......」


「トオル、好き」


しんのすけの低く心地よい声に、熱い身体と吐息に、脳内が一気に真っ白になって。


彼に押し倒された瞬間、映画の内容なんて一切頭には入ってこなくなった。
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