短編
□*call
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仕事で一ヶ月の出張のため、同棲中の風間くんとは当然会うことができず、今日でやっと一週間を迎えた。
一週間でも長いのに一ヶ月も風間くんに会えないなんて、とんだブラック企業だ。
出張なんてもの、一体誰が考えたんだ。
できることなら仕事になんか行かず、一瞬たりとも風間くんの傍から離れたくはないのだが、生憎そういう訳にもいかない。
今日一日の業務をやり終え、22時前には宿泊先のホテルに戻ることができると、ひとまずベッドに座り一息つく。
あと、三週間も風間くんに会えないのだ。
携帯を開きカレンダーの日にちを数えて、本日何度目かのため息を漏らした。
出張に赴く前、風間くんに寂しくないかと聞いてみたところ、真顔で"寂しくない"ときっぱり言い切られてしまったことを思い出す。
全く、冷たいよね。
俺は死ぬほど寂しいというのに。
この一週間、残業続きで風間くんに電話をかけることもメールを打つことすらもできなかった。
でも今なら....
「電話、できるよね。風間くんの声が聞きたい...」
思い立ったが吉日、逸る気持ちを抑えながら連絡先から愛しい名前を選択すると、通話ボタンを押し込んだ。
「....もしもし?」
数コール鳴ってもなかなか応答がないことに不安を覚えたとき、成人男性にしては少し高めの可愛い声が俺の耳に届いた。
「あ、風間くん?元気ぃ〜?」
「しんのすけ。元気だよ。いきなりどうしたんだ?」
一週間ぶりに聞く愛しい彼の声に、先程まで溜まっていた疲労なんて一気に吹き飛んでしまう。
「今日は仕事早く終わったから久しぶりに風間くんの声が聞きたいなぁ〜って思って」
「そうか。毎日大変だな。お疲れ様」
「うん、ありがと。....風間くんさぁ、今何してるの?」
「僕?さっきお風呂から上がったばっかりだよ」
「ふ〜ん、そうなんだ」
風呂上がりの風間くん...
何かエロい...
電話をしてしまえば、声を聞くだけでは物足りなくなることくらい分かっていたはずなのに、今すぐにでも風間くんに会いたくなってしまう。
せめて、風間くんの姿をこの目に焼き付けておきたい。
「ねぇ風間くん。今どんな格好してるの?」
「格好?普通に寝巻きだけど。あ、そういえば昨日新しい寝巻き買ったんだ」
新しい寝巻き?
これは、チャンスだ。
「え〜どんなやつぅ?オラ見たいなぁ。見せてよ」
「へ?やだよ。お前が出張から帰ってきたらいつでも見れるだろ」
「えぇ〜やだぁ。それまで待てない〜。今見たい。絶対今見たい。お願い、見せてぇ」
「いやだって言ってるだろ」
「あ〜〜風間くんに会えなくてオラ寂しいなぁ〜。風間くんの可愛い寝巻き姿見たら元気出るかもしれないのになぁ〜」
「なんだよ、それ」
「だからさ、写メって送ってきてよ。送ってこないなら帰った直後無理やり抱くからね!」
「はあぁ!?ふざけんなぁ!」
俺の欲望は止まることはなく、風間くんの怒号を最後に一方的に通話を切ってしまった。
まぁ仮に送ってきたとしても勿論抱くけどね。
枕元に携帯を放り投げ、上着スーツも脱がないままベッドに寝転んだ俺は、風間くんの寝巻き姿を想像しながら来るか来ないか分からないメールをただ待ち続けた。