短編

□*懇願
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風間くんを"泣かせてみたい"
と不意に思うことがある。


彼の笑っている顔や照れた顔が好きなのは事実だし、勿論、心の底から大切にしたいのだが、激しすぎる想いは自分の気持ちさえも見失うほど、何もかもを呑み込んでしまう。



風間くんを傷付けるつもりなんてない。
風間くんには優しくしてあげたい。
風間くんの望むままに応えてあげたい。

風間くんがいつも笑っていられるなら、俺は傷ついたって構わなかった。


愛してる。
愛してる。
愛してる。


どれだけ言葉にしてみても、俺の気持ちを伝えるには全然足りない。


髪の毛も、一瞬の視線も、言葉も、彼に染まった空気も、笑顔も、どんなにささやかな刹那だって、誰にも渡したくはない。

誰とも共有したくはない。



風間くんは、俺だけのモノなのだから。



…なのに。

ふとした瞬間に突然、残酷な感情が心の隅に生まれる事がある。









「…しんのすけっ、やだっ...」


ベッドの上に風間くんを押し倒し、口付けた耳朶を軽く噛んで、小さな歯型を彼の身体に刻み付ける。


「い、痛いだろっ...!もうやめろよっしんのすけ…!」


拒絶の声を訴えかける風間くんの言葉を無視して、痛みに震える彼の耳に丁寧に舌を這わせた。


「…っ! あぁうっ...!」


痛みと快楽の狭間で揺れる風間くんの甘い吐息を貪って、奪い尽くして、心も身体も、全て支配してしまいたい。
俺無しでは生きられないのだと、泣いて懇願させてみたい。


好き、だとか。
愛してる、だとか。
そんなものでは全然足りない。


風間くんの為だけに存在する俺と同じだけ、彼にも俺を望んで欲しい。


「しんのすけっ、どしたんだよ...?何か今日変だぞお前っ...」


「...オラをおかしくさせてんのは風間くんなんだよ」


華奢な身体を強引に押さえつけて、身動きが取れない状態になっている風間くんの耳を執拗に攻める。

顔を背けて逃れようとする彼の首に、唇を押し付けてきつく吸い上げた。


「ふ、あぁっ...!」


白い首に、喉に、口づけのあとを残しながら、風間くんは俺のモノなのだと主張していく。


「しんのすけっ...そんなに、したらっ、痛っ...」


「痛い? …じゃあ何でこんなになってるの?」


片手で身体を押さえたまま、風間くんのズボンを器用に下げ、下着の上から敏感な部分を撫で上げる。
布越しでも分かるほど膨張しているソコは、下着にも大きなシミを作っていた。


「トオルちゃんは痛くされると感じるんだぁ?」


「ち…ちがっ...!」


「違わないでしょ?耳と首しか愛撫してないのにもうこんなに濡らして…やらしい子だねぇ、風間くんは」


「いやだっ…やめろっ!」


頭を左右に振って否定してくる風間くんの、藍色の瞳に涙のしずくが微かに浮かぶ。

胸を刺す痛みと、その痛みよりももっと大きな甘い疼きを感じながら、彼の下着の中にゆっくりと手を忍び込ませた。


「やだって言われてもねぇ?風間くんの此処、すごい反応してるけど」


「....っ」


「自分でも分かるでしょ?」


「わかん、なっ…もうっ…やだぁ...!」


ポロポロと涙をこぼしながら抵抗してくる風間くんのしなやかな両足を強引に開かせ、その間に自身の身体を差し入れて覆い被さり、下着の中で小さく強張っているその周りを指で軽くなぞる。


直後ビクンと大きく身体を震わせ、彼の抵抗が一層激しくなった。


「はな…せっ、しんのすけっ…!!」


「...こらこら、暴れちゃダメだぞ」


敏感な部分に触れそうで触れない、ギリギリの位置をゆっくりと愛撫しながら面白そうに笑うと、風間くんがキッと俺を睨みつけてきた。

涙で濡れた強気なその瞳が、たまらなく俺をゾクゾクさせる。


「焦らされてるの、興奮してる癖に。トオルちゃんが本当に触って欲しいのは…此処だもんね?」


小さな、けれど充血して感度の増したソコをきゅっと指で摘み上げると、風間くんの身体が大きく跳ねた。


「ああぁっ…!!」


「…そんなに気持ちいいの?」


風間くんを見下ろしてクスクス笑うと、ふいっと俺から顔を背けてしまう。


シーツの上に彼の綺麗な涙がこぼれ落ちる。

その姿は俺を拒絶しているようで、焼けるような熱さが静かにこみ上げてくる。


「オラの愛撫でこんなに感じてる癖に、風間くんはオラを拒絶するんだね」


「…っ」


下着の中に手を入れたまま、指で小さく起立している部分を執拗に撫で回す。
掌で押しつぶし、上下に何度も擦り上げると、風間くんの可愛らしい喘ぎ声に、いつものような泣き声が混じってきた。


「…もうイきそうだね」


「…あ、ああぁっ...!」


「でも、今日はイかせてあげないよ」


すっと掌を敏感なトコロから離すと、再びそのまわりをゆっくりと撫で始める。
達する寸前で止められた風間くんが涙で滲んだ瞳で俺を見て、すぐに視線を外した。


その一瞬の視線に懇願が混じっていたのを、俺は見逃すはずがなかった。


「…イかせて欲しい?」


俺の問い掛けに彼は答える気がないらしく、唇をきゅっと閉じたまま眉根を寄せた。


「ねぇ風間くん、オラにイかせて欲しいの?」


もう一度、風間くんの耳元に唇を寄せながら、囁くように問い掛ける。
同時に腹まわりを撫でていた指を、小さく起立したソコにするりと滑らせた。


「…うあぁっ...!」


「可愛い風間くん...オラの指先だけでこんなに反応してくれるなんて…」


ククッと笑いながら呟いて2、3度上下に軽く指を動かすと、風間くんの小さな手が俺のシャツを掴んできた。


「なあに?トオルちゃん。オラにどうして欲しいの?」


切なそうな風間くんの表情が答えだと分かっていても、言わせたい。

彼の言葉で、声で、俺を満たして欲しい。


「イかせて下さいって…言ってよ」


「いやだっ...!」


「言わないならずっとこのままだよ?」


風間くんの熱い部分からあふれる蜜を絡め取り、そのまま濡れた指で擦り上げると、ビクビクと細い身体が反応した。


どんな風に愛撫すれば風間くんが感じるか。
誰よりも知っているし、分かっている。


風間くんは俺のモノだ。


それでも。


「…風間くん、大人しくしててね」


腹の底から湧き上がってくる黒い感情を隠し、笑みを浮かべながら彼の下着に手をかける。


「ぁ…いやだぁっ...」







ほんの30分前。

一緒に買い物に行ったついでに二人で本屋に寄り、新しく発売したゲームを見るため俺が風間くんから目を離したわずか数分の間。


知らない男と、風間くんが話していた。
楽しそうに。


ただそれだけのことで、こんなにも胸の奥がジリジリと焼けるように痛くなる。


どうしようもない。
自分でも抑えられない。


「抵抗しないで」


“偶然同じ本を手に取っただけだよ”と風間くんは言った。

それが嘘じゃないことも、彼が嘘をつく必要がないことも、ちゃんと分かっている。


プライドが高いエリート人間だけど根は優しい風間くんは、誰とでも仲良くなるからその男に決して特別な感情があるわけではない。

分かってる。
分かっているのに…止められない。


「抵抗したらオラ、風間くんに酷い事しちゃうかも」


低い声でそう告げてから、風間くんの下着をゆっくりと脱がせていく。

シャツは胸が見えるあたりまで捲り上げたまま片手で押さえ、もう一方の手で自身のベルトに指をかけそれを外す。


「…し、しんのすけっ…」


「挿れるね」


風間くんの言葉を遮って、熱く怒張した己自身を彼の濡れた部分に押し付けた。

先端に蜜を絡めるように数回前後に動かしてから、やや強引に、引き裂くように挿入する。


「あっ、ああぁっ....!!」


相変わらず狭くて窮屈な風間くんの内部が、俺を強く締め付ける。
前戯でイかせていないせいか、いつもとは内部の感触が違う。


きつい癖にとろけそうなほど甘く熱い感触ではなく、まだどこか熟してない果実のような青さが残っている。

性行為に慣れてなかった頃の彼のようだと感じた。


「風間くん、ほら」


白い両脚を広げて、風間くんと繋がってる部分を俺はじっと見つめる。


「明るい部屋でこんなに大きく脚を広げたらトオルちゃんの此処、全部見えちゃうね♡」


「…っ!」


俺の台詞に真っ赤になった風間くんが、脚を閉じようと力を入れてくる。

それを難なく押さえ付け、繋がった部分を凝視しながら強張りを何度か出し挿れする。
風間くんの蜜が俺自身にまとわりつき、くちゅくちゅと淫らな音を立てた。


「やぁらしい音、聞こえる?」


「やめろっ、はなせっ...!」


「離していいの? 本当はもっとシて欲しいんでしょ?」


「ちがっ...!」


「可愛い、風間くん」


「…いやだぁっ...!」


優しく愛してあげたいと思うのに、身体を支配するのは別の感情で。
俺以外の男に向けた風間くんの笑顔が、どうしても頭から離れない。


「一番奥まで当たってるよ?分かる? 風間くん」


「...うっ...」


「このまま激しく突いたらトオルちゃん、イッちゃうよね」


意地悪くそう微笑みながら、強張りの先端で最奥を軽く突き上げると、泣きそうな声で風間くんが俺の名を呼んできた。

その声も、小さく震える身体も、俺を受け入れている熱い部分も、潤んだ翡翠色の瞳も、すべてがうっとりするほど甘く、俺を痺れさせる。


「…オラが欲しい?」


問いかけた俺の方が、風間くんを激しく求めている。
そんなことは分かってる。

風間くんのすべてが欲しくて、もがいて、胸が苦しくて、呼吸さえ出来なくなりそうだ。


「ねぇ、風間くん。オラが欲しい?」


繋がったままの部分をゆるゆると動かしながら尋ねると、風間くんは悔しそうな顔をしながら、それでも与えられる快楽には逆らえなくて、小さく、本当に小さく、こくんと頷いた。


「…トオル」


そんな風間くんが愛しくて髪に、耳に、口付けをいくつも落とす。

こんなのは、ただの自己満足だ。

それでも、彼に必要とされたい。
俺が欲しいと言わせたい。


「風間くんが好きすぎて、オラ、おかしくなりそう」


「…え…?」


どういう事かと聞かれる前に、風間くんの柔らかい唇に、自らの唇を押し付ける。
舌を差し入れて熱い口内を味わいながら、腰を突き上げた。


「…っ!ん、んうぅっ...!」


舌を絡めて吸い上げながら、風間くんの深い部分に己の欲望を擦り付ける。

こうしてずっと身体を繋げていたい。
唇から、舌から、繋がった下肢から、俺と風間くんの境界線が無くなってしまえばいいと思う。


「…ふっ…っん...」


何度も何度も、高ぶった己自身を出し挿れし、風間くんの最も感じる部分を刺激する。


「っあ...しん、しんのすけぇっ...!」


「もっと、動いて欲しい?」


風間くんの耳元に唇を寄せて尋ねると、今度は逡巡せずに、彼はこくんと素直に頷いた。

少し身体を離して風間くんの顔を覗き込むと、熱っぽく濡れた瞳で、けれど真っ直ぐに俺を見つめてくる。


「…トオル、トオル...」


息を吐くように彼の名を呼び、先ほどより少し深めに突き上げる。


「あっ、ああぁ…っ!」


風間くんの熱い内部が、甘く俺を締め付けてきた。


「…っ」


俺と身体を繋げることで、何よりも大事で愛しい恋人が、感じてくれている。

快楽に、溺れている。
俺を求め、俺に溺れている。


そう意識すると、一気に限界が近づいてきた。


「…はっ、風間くっ...」


強張りで風間くんの最奥を擦り上げると、ガクガクと彼の小さな身体が震えだした。
うわごとのように、俺の名前を何度も呼んでいる。


「…風間くん、オラと一緒にイこうね」


「し、しんのすけっ...!んあ、あっ、あああああぁぁ…っ!!」


「―…っ」


達して収縮する風間くんの内壁の感触を味わう余裕もなく、俺も彼の中に己の情熱をすべて注ぎ込んだ。



ーーー



ぐったりと力の抜けた風間くんの身体を抱きしめて、意識のない彼の額に口付ける。


下肢はまだ繋げたままだ。


離れる気になれない。
ずっと繋がっていたい。


こうして身体を繋げたまま、食事も、睡眠も、俺を感じながら24時間を過ごして欲しいと言ったら、このコはどうするだろうか?


「…ん」


額から瞼、睫毛に何度もキスをしていたら、くすぐったいのか小さな右手が伸びてきて、俺の顔を押し返そうとしてきた。

その手を優しく捕えて指先に唇を押し付ける。

しつこくキスを繰り返していると、今度は左手が伸びてきた。


「……」


左手の薬指に、細いプラチナのリングが光っている。

風間くんが俺のモノだという証拠だ。


「…ごめんね、風間くん」


名前を呼んで、可愛らしい頬に手を添える。


自分の感情を制御出来ずに、暴走して彼を傷つけた。

それでも、風間くんは俺を受け入れてくれた。
何度も何度も俺の名を呼んで、俺を求めてくれた。


「トオル、愛してるよ」


きっと、目を覚ましたら少し不機嫌で、もしかしたら口をきいてくれないかもしれない。

風間くんが許してくれるまで、何度でも謝って。


今度はちゃんと優しく愛してあげようと、自分に強く誓った。
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