長編
□禁断領域2
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「僕、女の子に、なっちゃった」
「.....は?」
僕の目の前で彼は怪訝な顔を見せると、目を見開いた。
今日は珍しく21時前にはしんのすけが帰ってきてくれた。
部屋の中に入ってきた彼の息は微かに上がっていて、走って帰ってきてくれたことを物語っていた。
部屋の端っこで両膝を抱えて座り込んでいる僕の姿を見ると、安堵した表情で"よかった、居てくれた"と静かに呟いた。
昨日のことを悪いと思ってくれたのであろう、しんのすけが早く帰ってきてくれたことが嬉しくて。
同時に彼に会えた安心感からか、僕は泣きながらさっきのことを単刀直入に打ち明けてしまった。
「....風間くん何言ってるの?どういうこと?」
いきなり泣き出し意味の分からないことを喋り始めた僕に、しんのすけも困惑している様子だった。
座り込んでいる僕と目線を合わせるように、しんのすけも腰を落とすとしゃがみ込んでくれる。
「今日の朝、起きたら女の子の身体になってたんだ...」
「....それ、本当なの?」
「うんっ、嘘じゃない。本当に....」
一瞬ためらったが、見てもらったほうが早いと判断した僕は、前で組んでいた腕を離して衣類越しから胸元を見せた。
「.....下は?」
しんのすけは無言で膨らみを確認すると、下半身へと目をうつす。
「下も...なくなってる...」
「ほんとに?...」
「どうしよう、しんのすけぇ...」
しんのすけは黙って立ち上がると、ポケットから携帯を取り出した。
「明日、一緒に病院行く?行くなら今から会社に休みの電話入れるけど」
「う....びょ、病院...」
病院というワードに身体が強張る。
それもそのはず、僕は昔から病院が大嫌いだった。
注射が特に苦手で、思い出すだけで鳥肌がたつ。
「ま、待って、しんのすけ!びょ、病院はまだ大丈夫だよ。しばらくこのまま様子見てみる...」
「本当に大丈夫なの、それ」
「わ、分かんないけど。もしかしたらさ!一晩寝たら元に戻るかもしれないし!」
「...まぁ今仕事休むことになるのは難しいから俺はその方が助かるけど」
そう言いながらしんのすけは僕から一旦視線を外し、数回目を泳がせたあと台所の方を見つめた。
「あ、お腹空いてるよな!ごめん、今から作るから!」
そういえば僕も今日一日、何も食べていなかった。
急いで腰を上げ、台所に向かう僕の腕をしんのすけが掴んだ。
「いいよ、俺が作る。風間くんは座って待ってて」
「...え?」
思いがけないしんのすけの言葉に僕は間抜けな声を出してしまった。
スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを外したしんのすけは炊事の支度を始める。
「........」
彼に言われた通り、僕はソファに座り大人しく待つことにした。
(なんか、変な感じ....)
手際よく調理する彼の背中を眺める。
家を出る気でいたけれど、こうやってしんのすけと一緒に過ごす時間があるのはやっぱり嬉しい。
僕の身体を気遣ってか、今日はやけに優しいし。
(この身体になって、少しはよかったかも...)
不安な気持ちを振り払うように、僕は僅かな優越感に浸った。