長編

□禁断領域5
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雲一つない空は青く澄み渡っていて、今の僕の気持ちと同じくらい快晴だ。

今日は嬉しいことに大学が午前中で終わり、現在、僕は駅前の商店街に来ていた。



この身体と共に過ごして早くも一ヶ月が過ぎた。

近頃では、周りの人の目を気にすることはなくなり、自分の身体の扱いにも慣れ違和感もさほど感じなくなった。

気分転換にと久しぶりに街に出てみたのはよかったのだが、人の多さに多少たじろいでしまう。


「わぁ、やっぱり駅前って人多いよな」


老若男女問わず行き来している商店街の中をキョロキョロしながら通る。

背があまり高くないせいで人の波に押し潰されそうになりながら、やはり来るべきではなかったかなと後悔した矢先、自分のお腹が微かにくぅーっと情けない音を発した。


「...お腹すいたなぁ。せっかくだし、どこか食べに寄ろうかな」


変に歩き回るのはやめて、最初に目についた喫茶店へと足を運びかける。


「...あれ?」


ふと、喫茶店の中に入ろうとしている人物に目が向かってしまった。


「しんのすけ...?」


毎日生活を共にしている黒色の髪とスーツ姿の彼を遠目から確認する。

携帯で時間を確かめると、お昼真っ只中だ。
察するに、休憩中なのであろう。

しんのすけの職場は駅の近くだったと思い出した。


「し....!」


彼に話しかけにいこうとして立ち止まる。

目を凝らしてよく見てみるとしんのすけの他に、女性が三人いたのだ。
仕事仲間らしきその三人は親しげにしんのすけに話しかけている。


「わぁ、しんのすけ以外全員女の人だ...」


迷惑になってはいけないと思い、喫茶店には寄らずに踵を返した。


「すごいな、しんのすけ。やっぱりアイツってモテるんだなぁ...」


呟きながら元来た道を戻り、さっきの場面を思い返す。


不意に脳裏をよぎったのは、ある一つの疑問。

周りにはあんなに綺麗な女性がいるというのにしんのすけは何故、彼女をつくらないのだろう。

僕なんかと同居して本当によかったのだろうか。


優しいときは優しいのだがそれはほんの一瞬で、すぐに彼が冷たい態度を取ったりするのも素っ気ないのも、もしかしたらもう一緒に住みたくはないからかもしれない。

僕に気を遣って、ただ言い出せないだけなのかもしれない。



この身体になってしまった僕は、彼のお荷物でしかないかもしれないのだ。



軽い思い込みだったはずのソレは、どんどん僕の心を重たく冷たくしてしまう。


「きゃっ!?」

「わっ!?」


俯いてそんなことを延々と考えていたせいで、前にいた人の気配に気付かず誰かとぶつかってしまった。
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