長編

□禁断領域8
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午前の長い業務が片付き、ようやく昼休憩を迎える。

一息つき携帯を開くと、愛しいその子も画面越しから俺を迎え入れてくれた。

どんなに疲れているときも待受にしている風間くんを眺めると、溜まっていた疲労なんてすぐに消え失せてしまうのだ。



あぁ、風間くんに早く会いたい....

傍にいるだけじゃ物足りない。

抱き締めて、キスして、一緒に寝て....


「って、俺気持ち悪いぞ...」


オフィスで一人、淫らな妄想をして呟いてはすぐにまた自己嫌悪に陥ってしまう。

こんなことばっかり考えてるから駄目なんだよ俺は。





「あ!いたいた〜!しんのすけくぅ〜ん!私達と一緒にご飯食べよ〜?」


....うげ、しまった。

風間くんに気を取られていたせいであの人達の存在をすっかり忘れていた。


やけに耳につく高い声に嫌々顔を向けると、常日頃から俺にしつこいほど絡んでくる事務の女が3人、此方に手を振って近寄ってくる。


またか。
ったく毎日毎日、いい加減にしてよ...


「あ〜、ごめん!俺、外で食べてくるから」


それ以上関わってしまわないよう早口で伝えると、逃げるように席を離れオフィス内から立ち去る。


「えー!!しんのすけくんが食べにいくなら私達も付いていく〜!」

「...え、は?」


信じられない発言にこっちが返事をする前に、先程の言葉通り3人はきゃいきゃいはしゃぎながら俺の後ろを張りつくようにして付いてくる。


まじですか...
うわ、女ってめんどくさいぞ。


このまま相手にしていても時間の無駄だ。
心の中で舌打ちをしながら、最後まで無視することを決め込んだ。




ーーー



「ねぇねぇしんのすけくん!あそこの喫茶店入ってみようよ!先日オープンしたばっかりなんだよ!」

「いーねー!確かすごく美味しいって評判だったよね?私も行きたぁ〜い!」


「ねっ!行こ行こ!野原くんっ!!」


駅前まで出てくると、とあるオシャレな喫茶店に女3人がどうやら食いついたようだった。

俺は特に反応も示さずそのままスルーして通り過ぎると、一人が咄嗟に腕を掴んできた。


「もー!しんのすけくん!一緒に食べよ〜よ!苺パフェが有名なんだって!」

「あのねぇ、そんなに食べたきゃ君たちだけで.....」

「いいからいいから〜!入ろ入ろ!!」

「あ、ちょっとぉ!」


もう二人に背中を押され、どうすることも出来なくなる。

人の目もあるし、これ以上騒ぎを大きくする事態だけは避けたい。


「はぁ....」


死ぬほど面倒だが、今さらどうにか出来る状況でもない。
逆に否定し続ける方が身体的にも精神的にも辛いだろう。


あぁ、これが風間くんとだったら死ぬほど嬉しいのに....


捕まってしまった己の運命を呪いながら早めに食事を済ませることだけを考え、渋々喫茶店の中へと足を踏み入れた。
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