長編

□禁断領域10
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※しんのすけ視点









死んでしまいたい。


そう思ったのは初めてだった。









電気もつけず、真っ暗な寝室の扉に凭れて座り込む。

風間くんの声が扉越しから聞こえてくる度、自責の念にかられ消えてしまいたくなった。




俺は、風間くんを無理やり犯そうとした。

ネクタイで手首を縛って、動けないようにして。

泣いて嫌がっている風間くんに。
怯えて震えていた風間くんに。

俺は無理矢理....



そんな最低な男に、君は好きだなんて言ってくれるんだね。
傍にいたいだなんて言ってくれるんだね。

俺の為に、泣いてくれるんだね。



風間くんはいつだって優しかったよね。

昔から自分そっちのけで他人のために一生懸命になる子だった。
人一倍、プライド高くて生意気なくせに、小柄な身体でいつも頑張って。

強がってるだけで本当は誰よりも気を遣えて誰よりも心配性で。


そんな君を俺はすぐに好きになった。
ずっと傍にいたいと思った。
ずっと隣で笑っていたかった。





でも、それも今日で終わり。

風間くんは俺の傍にいては駄目なんだ。

一緒にいると、嫌でも風間くんを俺に縛り付けてしまうから。



束縛したくなる。
独占したくなる。
支配したくなる。



こんな醜くて汚い俺の感情も気持ちも、全部いらない。
彼に対する歪んだ想いも全て捨て去りたい。

その為には、俺が風間くんから離れる必要がある。


どんなに悲しくても
死ぬほど辛くても

そうするしかない。




ーーー




暫く扉越しから聞こえていた風間くんの声が急にピタリと途絶えた。


やっと、諦めてくれたのか。


貧血にも似た感覚にフラフラしながらベッドに横になる。


真っ暗な部屋は、窓から射し込む月の光で薄っすらと明るかった。

仰向けになって白い天井をただ見つめる。




風間くんに、一生会えなくなるかもしれないのだ。

風間くんと離れてもこれからの人生、彼以外の誰かを好きになることなんて絶対にないのだろう。

彼だけが俺の生きる全てだった。
風間くんだけ。風間くんだけ....


「.....嫌だ。風間くんと離れたくない」


天井に向かって呟く。

自分で勝手に決めたことなのに、精神が崩壊してしまいそうだった。

胸が張り裂けそうに痛い。





「風間くん、風間くん」


風間くんのいない日常なんて考えられない。


「トオル、好きだ」


風間くんがいないと、俺はきっと生きていけない。


「愛してる」


本人には決して届くことのない言葉を何度も何度も紡ぎ続ける。












「しんのすけ.....」


絶望の闇を切り裂くように突如、愛しい声が耳に響くと、扉を開けて風間くんが寝室に入ってきた。


「えっ....風間くんっ....!?」


まさか入ってくるとは思っていなかった俺は驚きでベッドから咄嗟に起き上がると、彼の姿を確認するため真っ暗な中必死に目を凝らした。



部屋に入ってきた風間くんは、暗闇でも分かるほどの真っ赤なワンピースに身を包んでいた。
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