【長編】ポケットモンスター ルフェインアヴァンチュール

□序章
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ホウエン地方。

石マニア坊ちゃんニートがチャンピオンをしているこの地に新たなチャンピオンが現れた。

名前はユウキ。

この地のジムリーダーである男性、センリの息子であり、今年旅立ったばかりの新人トレーナー。

ミズゴローの最終進化系、ラグラージを相棒に持ち、ホウエン地方に住まう伝説、幻のポケモン達と心を通わすことができた少年。

彼と出会ってきたトレーナー達は、彼がチャンピオンとなったことを聞き、皆、手放しで喜んでいたらしい。

中には彼ならやると思ったと口にするトレーナーもいたという。

彼がトップに君臨した際、下されたチャンピオン、ダイゴも、彼ならやってくれると思った、と自分に告げてきた記憶がある。

なんてことを考えながら、1人の女性、アイカは、いつものようにのんびりと過ごしながら、コーヒーを口にする。

彼女が住むのはミシロタウン。

新チャンピオン・ユウキが引っ越してきた自宅がある町。

新チャンピオン誕生!と一面が目立つ新聞が届き、現在進行形でお祭り騒ぎとなっている町には目もくれず、しかし、しっかりとその見出しを切り取りながら、目を瞑る。

目をキラキラとさせながら、初めてのポケモンをもらって旅に出ていた少年を思い出して小さく笑う。

が、その笑みはなんとも言えないものだった。

「おい、マスター。顔が気持ち悪いことになってるぞ。なんだそのニヤケ顔は。」

その笑みにツッコミを入れたのは、赤とクリーム色が合わさった長い髪をした青年。

その瞳はギラギラと濃い金色の瞳をしており、わずかに混ざる赤と橙が、炎や太陽を思わせる。

『気持ち悪いって失敬な!! 私はユウキくんの成長と、液晶画面を一枚隔てしか見れなかったあの達成感を感じていただけで……』

「そういえば今の自分じゃない自分の記憶を持っている……とか言ってたな。まぁ、それは置いておくとして、妙な笑みを浮かべるんじゃない。引いたぞ。綺麗な顔立ちをしてるんだ。気色悪いもので塗りつぶすな。」

『……本当、アポロンってそういうことさらっと言うよね。恥ずかしいと言うかなんと言うか……。』

「ふん。マスターの愛らしさはオレが一番よく知ってるんだ。それに、オレの好意は本物さ。まさか、人間にポケモンが恋するなどとは思わなかったがな。」

その青年……アイカにアポロンと呼ばれた彼は、人の姿をしているが、実際は人の真似事をしているだけの人ならざるものである。

その正体は、ホウエン地方の中で最初に選ぶことができるポケモン。

ほのおタイプのアチャモの最終進化系、バシャーモである。

性別は♂で、アポロンという名前はアイカが幼い頃に、父親から10歳の誕生日にプレゼントとして渡された時、普通のアチャモと違って金色の瞳をしていることから、ここではない、今の自分になる前の自分がいた世界の太陽神を思い浮かべたためつけた名前だ。

当時アチャモだったアポロンは、その名を気に入り自分の名前として受け入れて、ずっとそう名乗っている。

そんなアポロンは、アイカと共に過ごし、時にはアイカのポケモンとして野生のポケモンや彼女に害を与えようとしている人から守っていた。

寝る時もご飯の時も、お風呂の時もアイカが学校の時も、ずっとずっと過ごす度に、なぜか胸が疼くようになり、アイカとまともに見ることができなくなったりしてしまい、一時期避けるようなこともあった。

だが、その全てがアイカに自分が恋心を抱くようなったからだと理解してからは、逆にアイカに近寄って、ベタベタするようになり始めた。

そんな彼が、人間の姿をするようになったのは突然のことだった。

アイカと過ごし、ワカシャモ、バシャーモと進化して、アイカと同じくらいの視線の高さになった頃、彼はテレビで見た人間同士の愛の確かめ方である、口と口をくっつけるキスをしたくなったことがある。

しかし、自分はポケモンで、自身の口は尖っている。

これではアイカにキスなどできない。

むしろ傷つけてしまうと思った。

だが、アイカにはやっぱり触れたくて。

人のような腕で抱きしめることはできる。

背後からアイカに抱きつくこともできる。

でも、もはやそれでは物足りず、もっと、もっととアイカを欲した。

それによりある考えを脳裏に描いた。

自分が人間だったら良かったのに……。

そう考えた瞬間、自身の体毛に覆われていた腕は徐々に肌色へと変わり、全身を覆う体毛もたまた、徐々に人と同じものへと変わっていった。

鉤爪といってもいいような手も、人とは違う自身の足元、全て全て人へと変わった。

最初は驚いていたアポロン。

だが、人と同じ四肢を得て、人と同じ顔を得た。

尖っているような自分の口も、柔らかい人の口へと変わり、アイカを傷つけてしまいそうな全ては自分の肉体から消え去った。

最初はもちろん戸惑った。

その際、素っ裸だったため、アイカから悲鳴も上がって頬を打たれたりもした。

でも、自分は人の姿になれた……それは事実だったわけで。

……それからはもう、アポロンの望みの通りの生活を送っていた。

好きな時にアイカに触れ、好きな時にアイカの柔らかな頬へと唇を落とす。

話せるようになったのなら、アイカに好意を伝えたり、アイカのことを口説いたりする。

それが人となったバシャーモと、そのトレーナーの今となっている。


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