文章溜め

□歓喜
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歓喜よ、神々の麗しき霊感よ
この口付けを全世界に

この詩を、歓喜をロッカーの中に隠れて読むのがいつもの日課だった。お父様に見つかれば、女々しいと打たれてしまうから。それにしても、なんて素敵な言葉達なんだろう。

百万人よ跪け、神様は、星の上にいらっしゃる!

星の、上。星の上。神様が星の上にいらっしゃるのであれば、僕のことは見えているはずだ。地上で虚しく暮らす僕のことは。
「神様は、星の上に、」
その幻想を現実にしたいがため、言葉を発する。そんなことをしても意味が無いことなんて、自分が一番わかっているのだが。
「何が歓喜だ」
神様が歓喜だとおっしゃるそれは、僕にとっては絶望でしかない。僕はピアノなんて弾きたくない。お父様が打つから、言うことを聞いてるだけ。僕はほんとは、…
でも、どうせ僕はしんじゃうんだ。余命宣告をされたから。重い肺炎らしい。お父様、ごめんなさい、僕は最後までいい子にはなれませんでした。お父様よりもピアノの腕を上げて、王様の前で演奏して、たくさんたくさん素晴らしい曲を作るという使命があったのに。ごめんなさい、ごめんなさい。ああ、だからどうか打たないで、怒らないで、怒鳴らないで。
…でも、しぬのであれば、最後くらい我儘を言っても、許されるかな。ねえ、お父様、我儘を言うことを許してください。
「お父様、僕は…ほんとは、トランペットが吹きたかったんだ、!」
空に向かい叫ぶ。直後、首を絞められたように息が出来なくなった。ひゅー、ひゅー。喉奥から嫌な音が聞こえる。
そうか、こんな身体では、トランペットを吹くなんて、夢のまた夢。
やはり、神様なんていないのだ、歓喜なんて、ないのだ。



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